rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

2021年10月12日 金正恩、「国防発展展覧会『自衛―2021』」の開幕式で演説

 

 本日の「労働新聞」は、10月11日、平壌市内「三大革命展示館」において、標記展覧会が開幕し、そこに出席した金正恩が記念演説を行ったことを報じるとともに同演説の全文を掲載した。また、同展覧会の状況を示す写真も多数掲載した。

 これら記事によると、まず、展覧会の概況は、次のとおりである。

・参加者:金正恩のほか、党政治局メンバーの大半が参加

・技能展示:開幕式に先立ち、「総合軍楽隊の特色ある礼式」「人民軍戦闘員の撃術(格闘技)師範出演」、「最優秀落下傘兵の降下アクロバット」、「戦闘飛行士のアクロバット飛行」を実施

・開幕式:朴正天の開幕辞に続き金正恩が記念演説。その後、「国防力発展に特出した貢献をしたメンバーに対する表彰授与」(金日成勲章、金正日勲章をはじめとする各種勲章、称号や金日成らの名前入り時計など授与)。

・会場視察:「展覧会場には最近5年間に開発生産された各種武器、戦闘技術機材を中心に(展示)」。金正恩が「(開発生産に従事した)国防戦士の熱烈な愛国衷情を改めて評価」

・記念写真撮影:金正恩が「国防科学部門の指導幹部ら」に続き、「(冒頭の展示を行った)落下傘兵、戦闘飛行士」とも記念写真撮影

 次に、金正恩の演説について概括的に見ると、①同展示会に至る国防建設の経緯、必要性、②対外情勢(対韓、対米)認識、それへの対応方針、③今後の国防建設方針の3部分に分かつことができよう。

 まず、①では、同展示会を「我が国家が到達した国防科学、軍需工業の驚異的な発展相とその目覚ましい展望を誇示」するものと意義付けた上で、そうした軍事力整備が「変化した我が革命の主客観的条件と環境、そして世界的版図における軍事力の急速な変化の要求に相応」して、「過去5年の歳月に必ず断行しなければならなかった死生決断の国防工業革命の道」においてなされたものであるとして、その間の労苦を回顧するとともに、それに献身した「国防科学部門の科学者、技術者、功労者同志とすべての軍需労働階級」、更には、それを支持した「すべての人民」に対する謝意を表している。

 次に、②では、国防強化が「一時も逃すべきでない必須的で死活的な重大国事」であることを改めて強調した上で、その背景となる周辺情勢の悪化を「10年前、5年前、いや3年前とも異なる」と強調している。とりわけ、韓国に対して、ステルス戦闘機や高高度無人偵察機、(ミサイルの)多様な弾頭開発や射距離延伸、潜水艦戦力強化などの具体例を挙げつつ、「度を越えるほど露骨化した軍備現代化の試み」を繰り返し批判するとともに、「それより一層危険なもの」として、北朝鮮に対する「偽善的で強盗的な二重的態度」を指摘し、「彼らが追求する無制限的な危険な軍事力強化の試みは朝鮮半島地域の軍事的均衡を破壊し、軍事的不安定性と危険を育てている」と主張し、「今後、引き続き我々の自衛的権利まで毀損しようとする場合、決してこれを容認せず、強力な行動で対抗するであろう」と警告を発している。

 しかし、それに続けて、「我々は南朝鮮を指向して国防力を強化しているのではない」「我々の主敵は戦争それ自体であり、南朝鮮や米国、特定のいかなる国家や勢力でもない」などと主張し、韓国に対し、「過度な危機意識と被害意識から抜け出ること」への期待を示している。

 一方、米国に対しては、「最近になって、我が国家に敵対的でないとの信号を頻繁に発信しているが、敵対的でないと信じることのできる行動的根拠が一つもない」と指摘し、「彼らの言葉を信じる人がどこにいるのか」と不信を露わにした上で、「朝鮮半島地域の情勢不安定は米国という根源のために容易に解消できなくなっている」との見方を示している。

 最後の③では、こうした情勢認識を踏まえて、軍備強化継続の必要性につき、「一時も逃してはならない当為的な自衛的で義務的権利」と述べるなどして繰り返し強調し、「5か年計画期間、第2次国防工業革命を遂行」し、「戦略戦術手段の開発生産をより加速化する」との意志を明らかにしている。

 そして、同展覧会開催の「真目的」について、「国防科学者、技術者と軍需労働階級を鼓舞し、人民に新たな信念と勇気を与えることにもあるが、基本は、国の国防力発展をより力強く推動しようとするところにある」とした上で、国防工業部門に対し、「今後、より高い水準に、より早く上るための方略を講究」するよう求め、関係者に一層の献身・努力を訴えている。

 同時に、それ以外の部門に対しても、「皆が国防力強化の重大さを忘れてはならず、国家防衛力の優先的発展を離れて我が革命のいかなる発展も成果も考えることができないことを肝に銘じ」、「すべての人民も・・物心両面の支援を惜しまない」よう訴えている。

 総じて、同演説からは、国内向けと国外向けの二つの側面がうかがわれる。

 前者は、主に①,③において示されており、国防力強化の必要性・正当性を納得させることある(その背景には、それへの不満・懐疑が存在か)といえよう。今次展覧会の開催もまさにそのためであろう。

 なお、細かい点であるが、その展示物が何故「過去5年間に開発生産されたもの」になっているのか、明示的には説明されていないが、過去5年間を期間とした「第1次軍事力整備計画」のようなものが存在したのではないだろうか。先に明らかにされた今年からの軍事力整備5か年計画は、それを受け継ぐものなのであろう。

 後者は、②において述べられており、そこで最も印象的なのは、韓国の軍備増強に対する脅威認識であり、そこからは、南北の軍備競争を回避したいとの強い思い(要するに、何らかの形で手を握りたいということか?)がうかがわれる。かつての冷戦時代に米ソの軍備競争の結果、ソ連が自壊したことの教訓を想起しているのではないだろうか。一方、バイデン政権の「対話呼びかけ」に対しては、強い反発が感じられる。

 こうした対応からは、やはり北朝鮮を動かすためには、口先だけでは効果がなく、心から脅威を感じさせるほどの実際的行動(この場合は、韓国の大規模な軍備増強)が必要という結論が見いだせるのではないかと考える。