rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

2022年1月12日 極超音速ミサイルを再発射、金正恩が参観(加筆版)

 

 本日の「労働新聞」は、金正恩参観の下、国防科学院が11日、極超音速ミサイルの発射実験を行ったことを伝える記事を掲載した。同記事の骨子は、次のとおりである。

  • 参観者:金正恩、趙勇元党秘書及び「党中央委員会該当部署副部長たち、国防科学部門の指導幹部たち」(氏名報道はないが、写真中には金予正の姿あり)
  • 実験目的:「開発された極超音速武器体系の全般的な技術的特性を最終確証すること」
  • 飛翔状況:「発射されたミサイルから分離された極超音速滑空飛行戦闘部は、距離600㎞界線から滑空再跳躍して、初期発射方位角から目標点方位角へと240㎞強い旋回軌道を遂行し、1,000㎞水域の設定目標に命中した」
  • 試射結果:「極超音速滑空飛行戦闘部の卓越した機動能力がさらにはっきりと確証された」
  • 金正恩言動:「試験発射に先立ち、国防科学院院長から極超音速ミサイル武器体系に対する総合的な解説を聴取」、(試射成功を受けて)「ミサイル研究部門・・の実践的成果を高く評価され、党中央委員会の名義で特別感謝を下さった」、「国の戦略的な軍事力を質量的に持続的に強化し、我が軍隊の現代性を高め・・国の戦争抑制力を非常に強化するため‥引き続き立派な成果を獲得しなければならないと鼓舞激励」
  • 金正恩事後動向:「極超音速武器研究開発部門の核心メンバーを党中央委員会本部庁舎に呼ばれ熱く祝賀・・引き続き先端国防科学研究成果により国の戦争抑制力を強化し我が国家の自主権と安全を頼もしく担保するであろうとの大きな期待と確信を表明・・・記念写真を撮影」(同記事には、発射時状況写真とともに金正恩と30数名の研究メンバーの記念写真を掲載)

 今次発射は、5日の発射に続くもの。その際も「成功」と報道していたので、更に金正恩立ち合いの下でその性能を確認・誇示し、先端兵器開発の進展ぶり及びそこにおける金正恩の直接的指導を内外に印象付けることに狙いがあったと考えられる。そのことは、報道の中で、同ミサイルの開発経緯に関し、「党中央は、・・極超音速武器体系開発の全過程を強力に引導した」ことを殊更伝えていることからもうかがえる。

 そこで注目されるのは、同ミサイルを含め武器開発の目的として「戦争抑止力強化」などを強調する一方、米韓に対する名指しはもとより「敵」に関する表現がないことである。あくまでも自衛用で特定の「敵」を想定するものではないとの最近の主張を反映したものと考えられる(もちろん、だからと言って、本当に「敵」を想定していない訳ではないであろうが)。

 なお、韓国軍は、同発射に関し、11日午前7時27分頃、慈江道から発射、飛行距離700キロ、最大高度約60キロ、最大速度マッハ10内外との見方を示している。

 

以下の部分加筆

 参考:本日の韓国の「SPN(ソウル平壌ニュース)」は、上述の金正恩の「試験発射に先立ち、国防科学院院長から極超音速ミサイル武器体系に対する総合的な解説を聴取」との記述に関連して、添付の写真において、金正恩に説明している人物は、従前、党軍需工業部副部長とみられていた金正植(音訳)であることから、同人が国防科学院長に就任していることが判明したと伝えている。なお、前任の国防科学院長・張昌河(同)は、第2経済委員会委員長に就任しているとみられるとしている。

 金正植の経歴を見ると、戦略軍(ミサイル部隊)において少将、中将、上将と昇進しており、ミサイルの専門家とみられる。そうした人物が国防科学院の院長に就任するということは、北朝鮮の今後の軍備開発の重点が(核爆弾よりも)ミサイルに置かれていることを改めて示唆するものといえよう。