rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

2022年9月16日 日朝平壌宣言発表20周年に際し、外務省・宋日ホ大使が談話発表

 

 本日、朝鮮中央通信は、「日本政府は朝日平壌宣言を白紙化した責任を負わなければならない」と題した、9月15日付け標記談話を報道した(本日の「労働新聞」には、掲載されていない)

 同談話は、「今から20年前に発表された歴史的な朝日平壌宣言は、2国間の醜い過去を清算し、新たな関係をはじめることができるとの期待と希望を内外に抱かしめた」が、その後の日本政府の行いは、「すべて解決された拉致問題を復活させ罪悪にまみれた歴史をひっくり返そうと国内外に反共和国雰囲気を高めるために手段と方法を選ばず、我々の「脅威説」を極大化し、それを名分として侵略的な軍事力を階段式に増強」し、更に「我が国家の自主権と発展権を絞殺する目的の下にあらゆる醜悪な制裁措置を続けて取り、宣言を白紙状態にし、2国間関係を最悪の対決局面に追い込んだことだけである」などとして、日本政府の対応を厳しく批判している。

 その上で、「今日の朝日関係状況が今後、いかなる方向に展開するかということは、全面的に日本政府の態度如何にかかっている」として、対応を注視する姿勢を示している。

 同談話は、表題では、日本政府が平壌宣言を「白紙化した」として、同談話が既に無効なものになったとの認識をうかがわせているが、本文では、「白紙状態にし(た)」として、そうした断定は微妙に避けた上で、今後の両国関係については、「日本政府の対応」によって左右される得る余地のあることを明言している。

 換言すると、同談話は、日本が過去の罪科について「誠実に謝罪し、応分の賠償と補償を行った基礎の上で2国間の内容ある政治、経済、文化的関係を樹立する」との「平壌宣言の基本精神」に立ち戻るなら、それを基礎とした両国関係の改善は可能ということであり、更に言えば、それを待ち望んでいるということを表明したものとも解釈できる。そういった意味で、この談話自体は、日朝関係に関し、必ずしも否定的なものとは思えない。

 しかし、留意すべきは、そうした両国関係改善ないし日本政府の姿勢転換への期待が金正恩をはじめとする北朝鮮指導部全体で共有されたものかということである。冒頭で記したとおり、同談話が「労働新聞」に掲載されなかったということは、おそらく、そうではないことを示唆していると考えられる。むしろ、それは、宋日ホ大使をはじめとする北朝鮮外交部ジャパン・スクールの期待にとどまるのではないかという印象を禁じ得ない。彼らにしてみれば、現在の日朝関係下では自分たちの存在価値をまったく発揮できず、だからと言って自国の側からの姿勢変化を提案するわけにもいかず、日本側の「建設的」なアプローチ(「無条件の首脳会談」とかいった空疎なものではなく)を心待ちにしているのではないだろう。

 ただ、いずれにせよ、韓国からの関係改善アプローチへの対応にさえ梃子摺っている現在の岸田政権には、幸か不幸か、こうした北朝鮮からの「誘い水」に機敏に対応する余裕はないであろう。