rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

2023年8月2日 工業部門生産の順調をアピール

 

 本日の「労働新聞」は、第1面に「党中央委員会の決定貫徹に大きな拍車を加えよう 社会主義愛国運動、増産運動の火の手が強く燃え上がる 人民経済諸部門と単位において昨年同時期に比して高い生産成長率を記録」と題する記事を掲載した。

 同記事は、「総合された資料によると、我が経済の中枢となる工業部門において、上半年に続いて下半年に入ってからも、昨年の同時期に比して高い生産成長率を記録している」と報じた上で、「この成果は、・・国家復興発展の強力な推動力である社会主義愛国運動、革命的な大衆運動を活発に展開し、職場ごとで新基準、新記録創造の旋風を絶え間なく起こした結果、成し遂げられたものである」として、各種大衆動員運動の効果を強調している。

 同記事は、こうした主張に続けて、金属工業部門から紡績工業部門に至る各部門について、主要工場・企業所の名前もあげつつ、それぞれの奮闘ぶりを紹介・称揚しているが、いずれの部門に関しても、具体的な生産実績はもとより、計画達成などの表現は用いていない。

 本年上半年の経済(生産)実績については、6月中旬に開催の党中央委第8期第8回全員会議では特段の言及がなく不振をうかがわせたものの、その後の7月4日 「人民経済発展12個高地」に関し、具体的目標達成率を示しつつ、主要部門で上半年計画を「超過達成」したとする「朝鮮中央通信社報道」を公表し(同日付け本ブログ参照)、少なくとも、主要目標物資の生産は順調であるとの主張を展開している。

 上掲記事は、そのような主張の延長線上のものといえるが、対前年同期比較の対象となっているのが「生産成長率」であり、それが直ちに(生産量が低下している場合には)昨年同期比生産量の絶対的増大を意味しないことに留意が必要であろう。例えば、A部門の一昨年の上半期の生産量が100,昨年同期の生産量が99(成長率は-1%)、今年同期の生産量が98.9(成長率は-0.1%)であれば、同部門の今年の成長率は、「昨年の同時期に比して高い」と言えない訳ではない。

 7月28日に聯合通信が報じたところによると、韓国銀行の推計では、北朝鮮の昨年(2022年)の対前年比経済成長率は、-0.2%であった由であるから、こうした前提を想定するのは、あながち無理な主張にはならないであろう。

 仮にそうした見方が正しいとするなら、前掲の7月4日付け朝鮮中央通信の報道は嘘になるのかと言えば、それは、また、別の問題である。なぜなら、「12大高地」の各生産目標は、非公開のものであり、必ずしも当該物資の前年の生産量を超えて設定されているとは限らないからである。例えば、前掲の例で言えば、A部門の生産目標が98.8に設定されていたとするなら、実際の生産量が98.9であれば、生産目標を0.1%ほど超過達成したと主張することができる。

 「12大高地」という言葉に幻惑されて、それが非常に高い目標であったと想定すると、7月4日記事のような主張は、誇大宣伝と判断せざるを得なくなるが、実際は、2022年がマイナス成長であったという現実を踏まえつつ、実現可能性を最大限考慮して、そのマイナス幅を減少させることを主な狙いとして目標数字を設定したとするなら(それは、必ずしも無理な想定ではないであろう)、7月4日記事も、今日の記事も、真実を伝えているということになる。ただし、そのことは、北朝鮮経済が文字通りの意味で「順調」であることを意味するものでないことは言うまでもない。

 今日の記事の趣旨は、そうした具体的な生産実績云々というよりも、生産を推進する主たる動力として、いわゆる「経済的てこ」ではなく、「愛国運動、増産運動」という思想・宣伝分野に属する要素を重要視しているところにあるのかもしれない。そうした経済推進の原動力として思想ないし「運動」重視の考え方は、まさに、党中央委第6回全員会議以降、繰り返し強調されてきているところでもある。