rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

2024年1月13日 対敵部門活動家決起集会の開催を報道

 

 本日の「労働新聞」は、「金正恩同志が党中央委員会第8期第9回全員会議で提示された対南政策転換方針を徹底して貫徹するための対敵部門活動家の決起集会」が12日に開催されたことを報じる朝鮮中央通信の記事を掲載した。

 同記事は、「決起集会では報告と討論が行われ、決議文が採択された」とした上で、「報告と討論(複数)」における強調点として、

  ①「党の尊厳死守、国威向上、国益守護の原則に基づいて強国の地位にふさわしく共和国の対敵闘争史を記していく問題」

  ②「我々の『政権崩壊』と『吸収統一』だけを追求してきたかいらい一味は完全に掃滅すべき我々の主敵であるという確固たる観点で統一政策を新しく定立し、対南部門の闘争原則と方向を根本的に転換する問題」

  ③「南朝鮮の全領土を平定しようとする我が軍隊の強力な軍事行動に歩調を合わせて大事変の準備を先を見通して進めていく問題」

を上げている。

 また、決定事項として、「北南関係の改善と平和統一のための連帯機構として設けた6・15共同宣言実践北側委員会、祖国統一汎民族連合北側本部、民族和解協議会、檀君民族統一協議会など、我々の関連団体を全て整理すること」を報じている。

 以上の記事内容のうち、強調点としてあげられた3点が、当面の対南部門の活動内容を示めすものと考えられる。これを敷衍すると、①は、従前の対南活動ないし「統一」政策の再構成、つまり現在の価値観に基づく過去の活動の位置づけのし直し、悪く言えば、統一運動史の書き換えであろう。また、②は、「対敵」活動としての原則に基づいた新たな政策・活動方針などの研究・策定を意味すると考えられる。③は、文字通りに理解すれば、戦争勃発時における韓国内での諸活動(テロ、後方攪乱、占領地管理など)の準備ということであろう。

 決定事項として示された関連団体の「整理」は、②の前提ないしとりあえずの措置と位置付けることができよう。ただ、これらの「団体」は、おそらく、いずれも実態を有するものではなく、統一戦線部が用いる「看板」でしかなかったと考えられるので、その「整理」は、象徴的な行為とみるべきであろう。

 前述のような今後の活動重点などを勘案すると、統一戦線部自体は、今後とも、歴史整理、政策企画などの分野の重心を移しつつも、名称はともかく、何らかの形で存続するのではないだろか。これは、ある意味で、韓国の統一部が対話・交流部門を大幅に整理・縮小する一方、「人権問題」アピールなど北朝鮮に対する攻勢的な機能を強化しつつ存続しているのと、非常に対称的な動きのようにも思える。

 いずれにせよ、最も注目され、また検討すべきなのは、③がブラフなのか、それ以上の意味をもつのかという点である。この問題に関連して、今日の聯合通信も、カーリンとヘッカーという米国の朝鮮問題専門家が連名で、金正恩の「戦争準備」発言は、脅しにとどまらない可能性を指摘した(「38ノース」にて)ことを報じている。カーリンは、北朝鮮の危険性を吹聴するようなタイプの研究者ではなく、これは、傾聴すべき見解であろう。

 ただ、そうした仮説に対する反論の有力な根拠として次の2点をあげることできる。

  • 仮に、金正恩が本当に「南侵」を想定しているのであれば、その意志をこれほど明示するだろうか、奇襲効果を図るために、むしろ、「偽装平和攻勢」を仕掛けるのが普通ではないか。
  • 金正恩が「南侵攻」を「勝算あり」と計算している可能性は否定できないにせよ、それに伴う体制崩壊ないし国内での大被害のリスクをまったく無視しているとは考えにくい。しかし、北朝鮮の現状は、そうしたリスクを冒してでも死中に活を求めなければならないほど切迫しているとは考えにくい。

 したがって、金正恩のこのところの「戦争準備」発言やそれに関連した前述のような「戦争準備」動向についての現時点での私の評価は、基本的にはレトリックに過ぎないとみるべきだが、南侵の機会を虎視眈々と狙っている可能性もリスクシナリオとして残すべき、というものである。事柄の性格上、軽率な決めつけはすべきでないと考える。両論併記でずるいとの批判は敢えて甘受したい。