rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

2024年1月16日 最高人民会議第14期第10回会議の開催状況を報道

 

 本日の「労働新聞」は、標記会議が1月15日開催されたことを報じる記事及びそこで行われた金正恩の「施政演説」と高正範財政相の国家予算に関する報告を掲載した。

 まず会議の概況について述べると、議案は、①「2023年国家予算執行の決算と2024年国家予算について」、②「祖国平和統一委員会と民族経済協力局、金剛山国際観光局を廃止することについて」の2件であり、これら議題の審議・採択後に、金正恩が「共和国の繁栄・発展と人民の福祉増進のための当面の課題について」と題する施政演説を行い、最後に最高人民会議の仁哲議長が閉会の辞を述べ、会議は1日で終了した。なお、記事中では、金正恩の「施政演説」が議題の審議よりも先に紹介されているが、その文面からは、②の採択後に行われたと考えられる。

 このうち、議案①については、高財政相の「報告」及び朴章根副総理兼国家計画委員長はじめ5人の「討論」の後、昨年予算の決算を承認するとともに今年の国家予算を決定した。予算関係は、概して例年並みと言えるが、そこで示された費目の伸び率は、せいぜい3%以下であり、中央委員会全員会議で示された「国内総生産が2020年比で1.4倍達成」を反映しているとは到底考えられない。その詳細については、別項で論じたい。

 また、議案②については、最高人民会議副議長孟京日(祖国統一民主主義戦線議長件書記局長)の提案に基づき、当該機関の廃止を決定した。12日に開催された対敵部門活動家決起集会において党所属と見られる対南関係団体の整理を決定した(13日付け本ブログ参照)のと軌を一にする形で、政府系列の対南関係機関を廃止したことになる。その趣旨については、次の金正恩の「施政演説」の中で説明されている。

 最も注目される金正恩の「施政演説」は、構成としては、前段に経済関係を中心とした今年の目標・課題、後段が対外・安保関係となっている。

 経済関係では、各部門の取り組み課題などについては総花的に列挙(しいて特徴を上げれば、「特別に役割を強めるべき部門は、機械工業部門」と規定)した一方、「人民生活」向上への取り組みについては、「最も重視し、手間をかけるべき至上の課題」と位置づけ、特に、模範とされる「金化郡なみ」の地方工業基地建設について、第9回全員会議の決定内容を「消極的」と批判し、毎年20の郡でそれを実行し10年以内に全国的に終わらせる「地方発展20×10政策」を提唱した。

 最高人民会議において、閉幕したばかりの中央委全員会議の決定内容を批判し、それを覆す方針を打ち出すというのは、空前のことであり、今次会議最大の注目点と言うべきであろう。また、このことからは、中央委で金正恩の意にそぐわない内容が決定されることがありうること、同時に、金正恩は中央委決定を随時無効化・修正できることなど、金正恩の指導権の実情を考察する上で非常に重要な材料を提供するものといえる。

 対外・安保関係は、中央委全員会議での演説内容の延長線上のものであり、そこでの主張が一層顕著、具体化されたに過ぎない。

 そうした主張において一層明白になったのは、「ほぼ80年間の北南関係史に終止符を打ち、朝鮮半島に並存する二つの国家を認めた」と言い、憲法に「朝鮮民主主義人民共和国の主権行使領域を合法的に正確に規定する」ことを訴える一方で、「戦争が起こる場合には、大韓民国を完全に占領、平定、収復し、共和国領域に編入させる」ということの矛盾である。「二つの国家」であるならば、戦争になった場合、相手の「焦土化」はできるとしても、「収復・編入」することはあり得ないのではないだろうか。

 こうした自家撞着の存在は、金正恩の一連の発言が一つの整合的な路線・政策に基づくものであるというよりは、心理的インパクトに重きを置いたレトリックの集積に過ぎないことをうかがわせているように思われる。

 なお、余計なことだが、朝鮮総連は、こうした金正恩の発言をどう受け止め、どう対応するのであろうか。在日社会においても、「大韓民国」国籍保持者とはもはや「同族」「同胞」ではないと主張することができるのであろうか。他人事ながら心配になってくる。