rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

2024年1月17日 23年国家予算執行状況と24年国家予算について

 

 15日の最高人民会議第14期第10回会議において承認・決定された23年国家予算執行状況と24年国家予算について、高正範財政相の「報告」に基づき、整理してみた。

1 2023年国家予算執行状況

  • 歳入:100.5%執行(前年比101.5%)
    • 中央と地方内訳:中央歳入計画100.6%、地方歳入計画100.3%執行
    • 艦船献納基金、児童保育基金、助け合い基金社会主義愛国基金などの基金献納運動が活発に展開され、国の繫栄に貢献
  • 歳出:99.8%執行
    • 社会主義経済建設投資:前年比100.8%
    • 国防費:歳出総額の15.9%
    • 基本投資:前年比100.1%(和盛地区第2段階1万世帯住宅建設、西浦地区前衛通りの建設、江東温室農場の建設と江東セメント工場の建設など)
    • 重要工業部門(金属、化学、電力、石炭、機械工業等)の整備・補強と生産能力拡張:歳出総額の24.4%
    • 科学技術部門:前年比100.9%
    • 農業部門:前年比115%
    • 防疫能力建設:前年比113.2%
    • 社会文化部門:歳出総額の36.8%(育児政策、教育、保健医療、スポーツ、文化等)

2 2024年予算の概況

  • 歳入:昨年比102.7%(73.7%が中央経済による収入。その余は道・市・郡からの納入)
    • 基本項目である取引収入金100.5%、国家企業利得金103.2%(両者で収入総額の84%)
    • 協同団体利得金100.2%
    • 減価償却金101.5%
    • 不動産使用料102%
    • 社会保険料102%
    • 財産販売・価格偏差収入100.3%
    • 集金収入100.4%
    • その他の収入100.1%
    • 特殊経済地帯収入100.6%
  • 歳出:昨年比103.4%
    • 社会主義経済建設投資:昨年比102.4%、歳出総額の44.5%
    • 国防費:歳出総額の15.9%
    • 基本投資:昨年比100.5%(平壌市1万世帯分の住宅建設と農村住宅建設、平壌市の生活用水能力拡張工事等)
    • 人民経済事業費:昨年比100.4%
    • 科学技術発展事業費:昨年比109.5%(今年から人民経済事業費から分離。宇宙科学技術発展事業費と宇宙科学研究機関維持費含む)
    • 農業事業費:昨年比100.1%
    • 防疫事業費:昨年の計画水準
    • 教育部門:昨年比106%
    • 保健医療部門:昨年比:105.5%
    • 文化部門:昨年比:105%
    • スポーツ部門:昨年比:105%
    • 在日同胞子女に多額の教育援助費・奨学金を送付

3 コメント

  • 予算(歳入)総額の増加率:23年は22年より1.5%増加し、24年は23年より2.7%増加する見込みとなっている。このうち23年の増加率は、中央委全員会議での「23年の国内総生産は2020年比で1.4倍」との主張とは到底整合するものではない。もちろん国家予算と国内総生産は別物であるが、北朝鮮の場合は、国営企業の生産が予算に強く反映されるはずであり、年間10数パーセントの経済成長があったにもかかわらず、国家収入が1.5%しか増加しないということはあり得ないと考えられる。一方、今年の伸び率が昨年の2倍近くに設定されているのは、昨年の「好調」を加速できるとの思惑のあらわれであろうが、果たしてそううまくいくのであろうか。ちなみに、2022年の対前年比伸び率も1.5%と発表されている。
  • 歳出の部門別構成:今年の場合、経済建設に44.5%、国防費に15.9%とされ、これに昨年の社会文化部門36.8%を加えると、97.2%となる。残りの3%弱は何の費用だろうか。
  • 国防費:23年、24年とも「15.9%」で固定されている。遡ると、22年も同じであった。この数字が実相をどの程度反映しているのか定かでないが、少なくとも、この数字を見る限りは、金正恩が昨年来しきりに軍事力整備の加速化を訴えている割には、国防費の占める比率は変化していないということになる。
  • 経済部門内訳:伸び率が突出しているのは、昨年は農業部門(115%)であった。昨年の農業重視路線がそのまま反映されたことになる。一方、今年は、独立項目とされた科学技術発展事業費(109.5%)である。同予算は、23年の場合、対前年比100.7%であったことを勘案すると重視ぶりが顕著である。偵察衛星関連の費用などは、国防費ではなく、ここに含まれている可能性があろう。
  • 社会文化部門:今年の予算では、社会文化部門の各費目(教育、医療、文化、スポーツ)が総じて5~6%の伸び率を示しており、昨年いずれも対前年比で101%に満たなかったのとは対照的である。宣伝面では、軍事、経済部門に関する強調が目立つ中で、やや意外な印象もあるが、これが実情なのであろう。
  • 「国家予算執行における厳重な偏向」:「報告」の中では、国家納付計画の未達や国家企業利得金計画未達成などについての指摘・批判がなされているが、昨年度にもほぼ同様の批判があったことから、いわば恒例化した発言であり、計画通りの生産ないし利潤を達成できない企業所が存在したということを示す以上の特段の意味はないと考えられる。