rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

2022年2月8日 最高人民会議第14期第6回会議開催を報道(加筆版)

 

 本日の「労働新聞」は、標記会議が2月6,7日の両日開催されたことを報じる朝鮮中央通信の記事を掲載した。昨日の本ブログで未報道の理由を推測したが、そのうちの②、すなわち「終了後にまとめて報道」であったことになる。

 議題は、今次会議の招集を決定した12月14日の常任委員会で決められたとおり、①「内閣の2021年事業状況と2022年課題、②2021年国家予算執行の決算と2022年国家予算、③「育児法」及び「海外同胞権益擁護法」の採択であった。

 会議の開催状況を要約すると、崔竜海常任委員長の「開会辞」、上記議案の決定の後、①について金徳訓総理が、②について高正範(音訳)財政相がそれぞれ「報告」を行ったのに続き、15人がそれらに関する「討論」を行った。

 その後、③について、最高人民会議常任委副委員長(姜潤石・音訳)が報告を行ったのに続き、これら法案に関する「研究及び協議会」を開催後、3人の「討論」を経て、両法の採択を決定し、最後にやはり崔竜海が「閉会辞」を述べ会議を締めくくった。

 金正恩の出席はなく、また、人事関係の任免などもなされなかった模様であり、概して特色のない会議であったといえる。

 強いて注目点をあげるとすれば、次のような点を指摘できよう。

  •  金徳訓総理が「内閣事業報告」の中で、昨年の成果に関し、「全国的な年間工業総生産額計画を148%として遂行」したと述べたこと。ただし、その後の産業部門ごとの紹介で具体的な数値を挙げたのは、「石炭生産計画を101%と超過遂行」、「鉄道貨物運輸計画を103%と超過遂行」「セメント生産計画を109%と超過遂行」だけであり、「148%」という数字が工業部門の実態を表しているとは考えにくい。何らかの数字のマジックの所産ではないだろうか。
  •  同「内閣事業報告」の本年度方針の部分では、相変わらず「自立経済の根幹をなす金属工業と化学工業を先行させる原則」を掲げ、各部門総花的な課題設定にとどまっていること。結果として、金正恩の強調している人民経済向上あるいは農業部門・農村振興についての言及は通り一遍に済まされているとの印象を否めない。「社会主義建設を全面的発展へと確固として移行させる」ことについても最後のほうで抽象的に触れているだけである。他方、「国家の唯一貿易制度を還元復旧」、「商業部門において国家の統一的な商業管理体系を至急復元」など、「国家経済全般を統一的に掌握」しようとの意欲はかなり強く示されている(それが可能かは疑問だが)。
  •  高正範財政相の「国家予算報告」では、本年度予算を対前年度比で、収入が100.8%、支出で101.1%とほとんど同額に抑え、分野・部門別でも、経済建設投資が102%、科学技術部門が100.7%、文化分野が100.4%(うち教育部門は102.6%)と大きな違いを示していない中、非常防疫事業に関しては、133.3%と突出させていること。なお、国防関係予算は、昨年も今年も変わらず支出総額の15・9%とされた(信憑性は分からないが)。ちなみに、昨年度収入については、2020年度に比して101.1%に増加したとしているが、仮に工業部門の生産額が総理報告のように5割近くも増加したのであれば、それに伴う国営企業所、地方企業の収入も増加するはずで、それらが大半を占める国家予算収入も、大幅な増加があったはずである。
  •  高財政相の報告で、「国家予算執行における欠陥」に関し、「経済的梃子を合理的に利用するための方法論を正しく確立せず、偏向が現れた」とした上で、「党の自力更生、自給自足原則を歪曲しつつ、自己の部門、自己の単位の利益にのみ執着する誤った思想観点と執務姿勢から抜け出さないなら、いつになっても国の経済を正常軌道に乗せることができないとの深刻な教訓を得た」としていること。これは、経済運営の現場における私的経済活動との癒着を示唆しているのではないだろうか。
  • 以下の部分加筆

     採択された法律関係では、まず、その審議過程において、「研究及び評議会」を経てる形としたことが注目される。こうした方式は、既に党関係会議では恒例化しているが、法令の採択においてもそれを導入したことになる。各種「会議」の実質化という傾向の反映といえよう。

     内容面では、いずれも条文が未公開なため詳細は分からないが、「育児法」は、このところの金正恩による児童生徒への乳製品や学用品供給などに関する指示などを反映したもので、最終的には金正恩の「偉大な親(オボイ)」としての権威を強めるためのものといえよう。

     また、「在外同胞権益擁護法」は、「海外同胞の民主主義的民族権利と利益を擁護保障することについての朝鮮労働党の構想と意図を法(制)化」したものとされているが、同法に関する「討論」に「海外同胞を愛国愛族の旗幟の下、固く結集し祖国の統一と隆盛繁栄のための道に積極的に立ち上がるようにする」との表題が付され、討論者・孟京日(音訳)も党統一戦線部副部長の地位にあることから、そうした狙いの下、「権益擁護」をアピールするものと考えられる。在日朝鮮総連でも、これに呼応して、「祖国(及び金正恩)の熱い恩情に忠誠で報いる」ことを会員に訴えていくのであろう。

     最後に余談だが、国家予算の収入細目の一つとしてあげられている「集金(집금)収入」とは何を指すのであろうか。これだけが、昨年比で「6.8倍」と突出した伸びを示しているが、皆目見当がつかない。御存じの方がいらっしゃれば、ご教示いただければ幸いです。