rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

2024年1月18日 最高人民会議第14期第10回会議での金正恩「施政演説」骨子(内政部分)加筆版

 

 遅くなったが、標記演説「共和国の繁栄・発展と人民の福祉増進のための当面の課題について」の内政部分に関するハイライト部分を整理しておきたい(外政部分は別途とりまとめの予定)。

ア 経済基本政策

  • 昨年成果:「わが人民が、自身が選択して強靭に推し進めている強国建設偉業が正当であることを再三確認し、わが国家の現在の成長の流れを通じて社会主義建設の全面的発展期を実感し、信念を固くするようになったというこれが、何よりも大事なもの」
  • 基本課題:「現時期、共和国政府に提起される重要な課題は、国家経済の上昇推移を引き続き高調させて国の経済全般を安定的かつ持続的な発展軌道に確固と乗せること」
  • 部門別課題:「人民経済の全ての部門で、生産成長に絶え間ない拍車をかけ、整備・補強を急いで終えるのに力を集中しなければならない」とした上で、①金属工業、化学工業、②電力工業、③石炭工業、採掘工業、④機械工業(「特別に役割を強めるべき部門」と位置づけ)、⑤建設事業(住宅建設など)、⑥健在生産、⑦鉄道輸送、⑧情報産業、国土環境保護、都市経営、について、それぞれ具体的に課題を列挙
  • 経済管理方法:「経済指導と管理において統一性を徹底的に保障し、全ての部門が共和国内閣の決定と指示に無条件に服従する厳しい規律と秩序を確立しなければならない」、「単位特殊化、なわばり主義との闘いを強力に繰り広げて、国家の利益、全社会的な利益を優先視する気風が確固と支配されるようにすべき」

イ 人民生活

  • 人民生活向上:「現時期、わが共和国政府にとって最も重視し、手間をかけるべき至上の課題は、人民の生活を一日も早く安定、向上させること」
  • 農業:「人民の生活改善のための事業で重要なことは、第一にも第二にも農業を立派に営むこと」、具体的取り組み策として「農業部門を思想的・精神的に、物質的・技術的に鼓舞、激励」、「農業勤労者の愛国的熱意と集団主義精神」発揚、「先進的な農業科学技術」、「灌漑システムを完備」、小麦増産、「野菜栽培と畜産、果樹栽培と工芸作物農業も共に発展」など列挙。「平壌市に近代的な家禽工場をもう一つ建設」
  • 地方振興の必要性:「首都と地方、都市と農村の生活上の格差が甚だしく、同じ道と市、郡内でも条件によって差が大きい」が、「社会主義建設の全面的発展理念に背馳するこのような現象を絶対に放置できない」、「今回の党中央委員会総会の決定書・・このように消極的な態度ではいつになっても、地方経済を発展させることができない」
  • 地方工業近代化:「近代的な地方産業工場の建設を毎年20の郡ずつ間違いない政策的課題として党が直接とらえ、金化郡と同じ水準できちんと実行して、10年内に全国の全ての市、郡、言い換えれば、全人民の初歩的な物質的・文化的生活水準を一段と飛躍させようとする」政策を「『地方発展20×10政策』と命名し、強力に推進」「党中央委員会の組織指導部に地方産業建設指導課を別に設けて、私が直接責任を持って総括し、頑強に推し進める」

ウ 科学技術振興、社会文化

  • 科学技術:「科学技術の発展に対する国家の統一的な指揮・管理機能をより強化」「国家科学技術発展戦略を採択し、国家重点課題と研究目標を設定」
  • 教育:「地方の教育水準と環境は極めて劣悪な状態からあまり脱していない」「中央の各教育機関が世界的な競争力を持つ人材を育成する事業に力を入れるとともに、農村学校をはじめとする地方教育機関を盛り立てるところに国家的な力量を投下して都市と農村の教育水準の差を画期的に減らすべき」
  • 医療:「今年、平壌総合病院を完工して開院し、同時に江原道に近代的な総合病院を建設・・今後は毎年、他の道にも近代的な総合病院を建設」「製薬工場と医療機器工場を近代化し、中央的な高麗薬工場を建設」

以下加筆

エ コメント

 以上の内政部分に関する演説内容において、最大の力点が置かれているのは、間違いなく、地方工業の整備加速化のための「地方発展20×10政策」である。

 そのことは、昨17日付け「労働新聞」掲載の「敬愛する金正恩同志の施政演説に提示された綱領的課題を徹底して貫徹し全面的国家発展を強力に推進しよう」と題する社説が、施政演説で示された多くの課題の中で、もっぱらこの「地方発展20×10政策」に焦点を当て、その意義を「地方の世紀的な落伍性を払拭し地方人民の宿望を解決する一つの巨大な革命である」などと称揚していることからも明らかである。

 また、本日(18日)付け「労働新聞」も、「地方発展の新たな里程標」と題する「政論」を掲載し、「地方発展20×10政策」について「農村振興のための路線とは別に地方工業発展を強力に推進し、可及的に早期の内に全国的版図で人民の初歩的な物質文化生活水準を一段階飛躍させよう」とするものとした上で、「輝かしく雄大な新時代の綱領、社会主義全面的発展の新たな里程標」などとの称揚を重ねるとともに、それを提唱した金正恩についても「この世で最も大きく偉大な理想と抱負を帯びて、その輝かしい実現のため文字通り宿願強行軍、労苦と献身の強行軍を続けておられる」などと称賛している。同「政論」は、その上で、最後に「愛国で団結しよう!」とのスローガンを引用し、「誰もかれも祖国の勝利と明るい未来のための聖なる愛国聖戦に一体となって奮い立ち我々の幸福な明日を力いっぱい手繰り寄せよう」と訴えている。

 同「政論」のこうした論法は、まさに「地方発展20×10政策」提起の狙いが金正恩の「人民愛」演出にとどまらず、それに感応した人民の奮起引き出しにあることを示すものといえよう。