rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

2024年3月16日 金正恩の航空陸戦兵部隊の訓練指導及び江東総合温室の竣工・操業式出席を報道

 

 本日の「労働新聞」は、金正恩がいずれも3月15日、朝鮮人民軍航空陸戦兵部隊(複数)の訓練を指導したこと及び江東総合温室の竣工・操業式に出席したことをそれぞれ報じる記事を第1面から5面までを費やして掲載した。それらの骨子は、次のとおりである。

ア 朝鮮人民軍航空陸戦兵部隊(複数)の訓練を指導

  • 同行:朴正天党秘書・中央軍事委副委員長(添付写真には訓練を共に観覧する「娘」の姿。記事中には言及なし)
  • 迎接:強純男国防相、李永吉総参謀長、総参謀部副総参謀長、空軍司令官、第11軍団長をはじめとする主要指揮メンバー
  • 訓練目的:航空陸戦兵(空挺部隊員)の動員態勢点検と実戦能力の判定
  • 訓練状況:①「輸送機が訓練場の上空に飛来し、戦闘員たちが仮想敵陣に雨あられと降下」、②「敵の地域を一撃のもとに占領する完璧な戦闘能力を力強く誇示」(地上を徒歩で攻撃、トーチカ状の構築物を攻撃・占領)
  • 金正恩言動:「戦闘員たちの勲功をたたえ、・・立派に準備されていると高く評価」、「最近行われた主要訓練を通じて、・・我が軍隊が各方面にわたって戦争に徹底的に準備されているばかりか、確たる主敵観を身につけて万端の戦闘動員態勢を堅持していることについて直接確かめることができた」、「訓練をより強く行って自己の戦闘的威力を全面的に強化していくことに関する綱領的課題を提示」、「人民軍の基本任務は一にも、二にも、三にも戦争の準備である・・現在の高揚した訓練熱意をさらに激しく高調させて戦争準備の完成に引き続き拍車をかけていかなければならない」

イ 江東総合温室の竣工・操業式に出席

  • 同行:「金徳訓内閣総理と朝鮮労働党中央委員会の秘書」
  • 「娘」言及:「(金正恩が)愛するお子様と共に竣工および操業式場に到着」
  • 竣工・操業式次第:①国歌奏楽、②竣工・操業辞(李日換秘書)、③金正恩「激励辞」(建設に参加した「空軍部隊の将兵諸君」及び「各級軍事学校の教職員と学生諸君」に対し、「本当にご苦労様でした」「感謝します」など感謝の言葉を連ねる)、④金正恩が「竣工・操業のテープカット」、⑤「嚮導の偉大な方々が党と政府、軍部の幹部と共に江東総合温室を見て回られた」
  • 江東総合温室の概況:「連浦温室農場に比べて規模と生産能力がはるかに大きい」、「円筒形野菜栽培装置温室、半球形ガラス水耕温室をはじめ、独特な様相の近代的な温室が壮観を成した江東総合温室は、首都市民に様々な品種の野菜を栽培、供給する」

 以上の報道のうち、空挺部隊の訓練指導は、米韓合同演習への対抗的意味合いを込めて先般来続けてきた重要訓練基地視察、砲撃訓練指導、戦車競技指導に続くもので、おそらく、その掉尾となるものであろう。それらを通じて、金正恩の言動は、「戦争準備」を念頭に置いた訓練の実戦化などを訴えるものであったが、軍隊に対するものとしては、いわば当然の要求とも言えるもので、それを超えた特段の驚きを与えるようなものはなかったといえる。

 その背景として、本ブログでは既に、各種建設工事への軍の大量動員により必要以上の軍事的緊張激化への対応が難しくなっているとの推測を述べたが、それに加え、4月10日に予定されている韓国総選挙を念頭に、「北風」を吹かすことにより尹政権・与党に有利に働くことを懸念しているとの推測も可能であろう。

 次に、江東総合温室竣工・操業式に関しては、韓国では、「娘」について「嚮導の偉大な方々」との表現が用いられたこと(下線部)に注目が集まっており、「後継者」の地位鮮明化のワンステップとの解釈もとりざたされている。確かに、この表現自体に着目するとそうした評価も可能ではあろう。

 ただし、記事全体を見ると、最近の「娘」を主語とした表現から以前の「(金正恩が)お子様と共に」という表現に後戻りしており、更に、訓練指導の記事では、写真には写っているが記事本文に言及がない。「後継者」化は(そうであるとしても)、2歩前進1歩後退といった形で進んでいるとみるべきであろう。 

 なお、金正恩は、同竣工・操業式への出席に際し、プーチン大統領から贈呈された乗用車を利用した模様である(朝鮮中央放送のニュース画像。個人的にはまだ見ていない)。これを受ける形で、金予正が16日、わざわざ談話を発して、「(金正恩が)プーチン同志が去る2月18日に贈り物として送ったロシア産専用乗用車を15日、公開行事で初めて利用した」ことを明らかにした上で、このことを「新たな高い段階で全面的に強化され、発展している朝露親善のはっきりした証左」と主張するとともに、「モスクワに今一度心からの感謝を送る」とした。対外アピールの狙いが強いように思われる。