rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

2022年10月12日 社説「蓮浦戦域に爽快な勝利の砲声が轟いた、社会主義建設の全戦線において多発的な勝利で応えていこう」

 

 標記社説は、10月10日、金正恩出席の下、咸鏡南道の蓮浦野菜温室農場建設工事の竣工式が行われたことを受けて、同農場完成の意義などについて論じたものである。

 なお、同竣工式の状況を報じた11日付けの「労働新聞」記事によると、同農場は、去る2月、やはり金正恩立ち合いの下で行われた着工式以来、「党創建記念日までの完工」を命じた同人の指示に基づき、主に軍部隊の力で建設工事が進められ、わずか230余日で完成に至ったとされ、「280町歩の広大な敷地に、現代化・集約化・工業化された850余棟の水耕及び土壌温室と地方の特色を生かした1,000余世帯の住宅、文化会館、総合奉仕(サービス)施設などが区画ごとに異彩を放って調和し、新時代の文明を誇示する」ものであるという。

 社説は、まず、そうした同農場建設完成の意義について、「我々皆が享有することとなる文明と幸福が日々増大していることを直感的に示してくれる新たな縮図」であり、「偉大な我が国家の輝かしい明日を確信させる勝利」であることを挙げている。

 その上で、そうした成果を受けての今後の課題として、「我々は、果敢な奮発力と投身力を発揮し、蓮浦戦域において成し遂げた巨大な勝利を社会主義建設のすべての部門、すべての分野においてのより大きな勝利へと粘り強く続けていかなければならない」と主張する。また、その各論として、「党中央の構想と決心を偉大な変革的実体として転変させていかなければならない」「すべての部門、すべての単位において、党が提示した政策的課題を着実に、確実に執行していくための闘争をより果敢に展開しなければない」と訴えている。

 また、本日の「労働新聞」は、同社説に続けて、「蓮浦温室農場竣工のニュースに接した全国人民の熱い激情の噴出 咸南道を震撼させる火球のような叫び『敬愛する元帥様 本当にありがとうございます』」と題する写真付きの記事を掲載して、人民への野菜の安定的供給のため同工事を発起し短期間に完成に至らしめた金正恩に対する「人民の感謝の声」を大々的に紹介している。

 こうした報道内容からは、同農場の完成を、金正恩の指導を忠実に実践すれば多大な成果を上げることができるということの可視的な証拠として強く印象付けたいとの狙いが明確に読み取れる。これは、逆に言えば、その背景として、金正恩の指導についていって本当に大丈夫なのか(それで幸福になれるのか)、という疑念・不安が拡散しているとの事情をうかがわせるものといえる。

 そうした推測と関連して、党創建記念日である10月10日に際しての動向を指摘しておきたい。同日には、本ブログで既に紹介したとおり、「労働新聞」が金正恩の指導下で実施された9月末以来の一連の軍事訓練等の状況を報じる記事を掲載し、また、前述のとおりの同農場竣工式が挙行されたわけであるが、関連論説や人民の反響記事が掲載されたのは、後者に関してだけである。軍事訓練については、多数の写真も添付して大々的に報じられたが、それは10日紙面での一過的なものであり、その後の紙面では、その意義を論じる評論・解説や人民の反響などは、ほとんど報じられていない。

 10月10日に際して、国防、経済(人民生活)に関する主要動向が並列して報道・実施されたことは、今日の北朝鮮の基本路線がいわば「並進」的なものであることを象徴しているとも言えるが、前述のようなフォローアップぶりは、北朝鮮指導部が国内的にアピールしたいのが、そのうちのどちらであるかを明確に物語っているといえよう。