rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

10月28日 金正恩が医療器具工場で怒った訳は?

 

 10月27日付けで金正恩が新たに建替え工事中の妙香山医療器具工場を現地指導したことが報じられた。多くの報道は、そこで金正恩が建替え工事の出来栄えが悪いとして担当者を厳しく叱責したと報じている。

 しかし、労働新聞の当該記事を子細に見ると、そのような報道は、状況を的確に伝えたものとは言い難い。まず、彼は、工場全体については従前の様相を一変したなどと高く評価し、そこで作成されている様々な医療器具についても一部改善を指示したが概して出来栄えを称賛し、満足の意を表している。

 その上で、「全般的に見れば工場の建替え現代化工事が党で構想したとおり進行されているが、細部的に見ると一部に欠陥もあるとして、建築施工を設計と工法の要求どおりに質的に(「必要な質に達するように」の意)できていないことを指摘」するとともに、そのような欠陥が生じた主たる原因は、必要な技能工を確保できなかったためとの見方を示した。

 そして、金正恩が何よりも怒ったのは、そのような出来栄えの悪さそのものというよりも、同工場の建替え工事を指導・監督するために党中央から派遣され、同地に駐在している「党中央委員会の幹部(イルクン)と設計担当者が適時に党中央に報告して仕上げ工事を質的にできるように技能工を確保するための対策を立てるべきであったのに、黙って座って見物でもしていた」ことである。

 彼は、そのような幹部らに対して、「技能工を追加動員する問題まで自分(金正恩)が現地に来て直接把握し、対策を立てなければならないほど仕事を無責任にして座っている」ときめつけ、「党中央委員会の幹部が自分と足並みを揃えられないでいると深刻な批判」を加えたとされる。ちなみに、彼は、同建設現場に技能工を追加配置するよう自ら指示を下したとされる。

 以上のような批判は、金正恩がこれまでも繰り返し指摘してきた幹部の消極的で漫然とした仕事ぶりに対する厳しい姿勢を改めて示したものと言えよう。とりわけ、党中央委員会所属の幹部に対しては、自分の手足となり、以心伝心でその意を体現して欲しいとの期待があり、それを裏切られたとの思いが働いたと考えられる。

 ただ、客観的に考えると、仮に、党中央からの派遣幹部が工事途中で技能工の不足を訴え、追加配置を要請したとして、本当にそれが認められたかは疑問と言わざるを得ないのではないだろうか。とりわけ「自力更生」が大々的に強調される昨今の雰囲気の中でそれを要請した場合、「自力更生」の精神に欠けるとの批判を浴びるおそれがあったのではないだろうか。彼らとしては、そのような危険を冒すよりは、むしろ上部に支援を頼まず与えられた条件の中で何とかやりくりして工事を完成させることが「自力更生」の精神にもかなう(と評価してもらえる)と判断したのかもしれない。あるいは、金正恩の視点からすれば、そのような発想がまさに「保身」にあたるのかもしれないが。いずれにせよ、北朝鮮の幹部については、概して「特権階層」などと目されているが、実は、生き抜いていく上での苦労は並大抵ではなさそうである。