rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

11月1日  「超大型放射砲の射撃実験実施」を報道

 

 本日付け「労働新聞」が10月31日に国防科学院が標記実験を実施したことを写真付きで報じた。

 「超大型放射砲の射撃実験」が報じられるのは、本年8月25日(実施は24日)、9月11日(同10日)に続き3回目のことである。また、北朝鮮がそれを含め各種の短距離飛翔体の発射実験を報じるのは、(10月2日のSLBM実験を除き)今年に入って10回目のことである。今次実験がこれまでの9回と異なるのは、金正恩の立ち合いがなかったことである。

 まず、今次報道内容を紹介すると、この実験の目的は、「超大型放射砲の連続射撃体系の安全性を検証するため」であったとし、実験結果、その安全性が確認され、「唯一無二の我々式超大型放射砲武器体系の戦闘性能と実戦能力の完璧性が確証」されたと述べて、実験の成功を主張している。

 そして、この超大型放射砲に期待される機能については、「奇襲的な打撃によって敵の集団目標や指定された目標区域を超強力に焦土化」することとし、地域制圧を狙いとした兵器であることを明らかにしている。

 また、同放射砲をはじめとする「最近新たに開発された戦術誘導武器(複数)」を「(北朝鮮に)脅威となる敵のすべての動向を抑制し、除去するための朝鮮人民軍の核心武器」と位置付けている。

 以上のうち、まず目的については、前回9月10日の実験の際、現地で指導した金正恩から「戦闘運用側面と飛行軌道特性、精確度と精密誘導機能が最終確定された」ので、今後は、「連発射撃実験だけ実施すればよい」旨の評価を受けたとされており、まさに同指示に符合するものである。

 また、結果については、上記報道に加え、韓国軍の観測などでも、前回実験では2発の発射間隔が19分であったところ、今回は3分間隔で発射されたとされることからも、「連発」に近づいたことが裏付けられる(軍事専門家の中には、放射砲としては3分では長すぎるとの見方もある由だが)。なお、前回実験では、2発が発射されたもののうち1発は内陸部に墜落したと目されており、2発とも正常に飛行した今回の実験は、色々な点で前回の結果を踏まえた改善の成果を示したものであったと言えよう。

 結局のところ、北朝鮮は、本年に入って実施した都合10回の発射実験を通じて、何種類かの短距離飛翔体(ミサイル)兵器を概ね完成させるに至ったと考えるべきであろう。それら兵器群の特徴を要約すると、射程は長短あるが最長でも概ね韓国を範囲とし、比較的精密な目標に対する連続的な打撃を目指したものと言える。これらの特性から推論すると、これら兵器群は、いずれも基本的に核弾頭ではなく、通常弾頭の搭載を前提にしたものと考えられる。

 北朝鮮がこれら兵器群を開発した狙いは、前掲報道を敷衍すると、北朝鮮に脅威を及ぼす韓国内の個別的目標に対する精密打撃能力を保持することにより、そのような脅威の具体化を未然に抑止し、あるいは脅威が現実・切迫したものとなった際には直接除去することにあると言えよう。そして、北朝鮮は、これら兵器群を以上のような目標実現のための「核心武器」とみなしているのである。

 それでは、北朝鮮による以上のような兵器群の開発ないしその完成は、不透明な状況にある米朝交渉ないし北朝鮮の「非核化」問題において、いかなる含意を持つのであろうか。多くの報道は、今次に限らず北朝鮮のこれら兵器の発射実験に対し、概して米韓に対する牽制・圧迫などの狙いを指摘している。また、そのような兵器開発を続けること自体、北朝鮮が国際社会との融和に背を向ける姿勢にあることを示すものなどとの見方も少なくない。

 北朝鮮のこれら発射実験が国連決議に違反するものである以上、それが国際社会の規範という視点から好ましいものでないことは言うまでもない。しかし、「非核化」という文脈に限定した場合、北朝鮮がそれら通常兵器の搭載を前提とした兵器群によって、自国に対する脅威を有効に抑止ないし除去する能力を確保できると認識し、それら兵器群を軍の「核心兵器」とみなしているのであれば、核兵器保有に執着する理由は、相当程度低減するのではないだろうか。更に大胆に推論するならば、仮に北朝鮮国内に「非核化」に消極的な勢力が存在するとした場合、「通常兵器だけでも十分国を守れる」と言える状況は、それら勢力を安心させるための有力な説得材料ともなろう。

 また、今次発射実験に限って言えば、従前恒例となっていた実験場への金正恩の現地指導がなされなかったことは、北朝鮮米朝関係改善の鍵とみなす「金正恩―トランプ」の個人的信頼関係へのダメージを少しでも防ぎたいとの配慮が反映した結果と考えることもできよう。

 要するに、今次実験をはじめとして、これら兵器群の開発は、「非核化」にとって必ずしもマイナス材料ではないのではないか、というのが筆者の結論である。