rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

2022年3月25日 大陸間弾道弾発射を報道

 

 本日の「労働新聞」は、昨24日、金正恩の「直接的な指導の下」、新型大陸間弾道ミサイル「火星砲―17」の発射実験を実施、これに成功したとする記事を掲載した。

 同記事の骨子は、次のとおりである。

  • 金正恩の同ミサイル発射に至る指導:金正恩が23日、「(同ミサイルを)試験発射することについての親筆命令書を下達」(同命令書の写真を別途掲載)、「24日、試験発射現場を訪れ、・・試験発射全過程を直接指導された」、「(8党大会で)核戦争抑止力強化方針を提示され・・特に新型大陸間弾道ミサイル開発事業を最重視され、毎日のように細心の指導と方向を下され」た。
  • 金正恩の発射時の指導状況:「試験発射準備状態を直接現地で具体的に了解され・・(発射陣地で)発射準備の最後の工程まで一つ一つ細心に指導され・・発射総合指揮所に位置され・・発射命令(を)発射区分隊に伝達」
  • ミサイル飛行状況:「試験発射は、周辺国家の安全を考慮して高角発射方式で実施」「平壌国際飛行場から発射・・最大頂点高度6,248.5㎞まで上昇し、距離1,090㎞を4,052秒(約67.5分)間飛行し、朝鮮東海(日本海)公海上の予定水域に正確に弾着した」
  • 試験結果:「武器体系のすべての定数が設計上要求に正確に到達し、戦時環境条件における迅速な運用信頼性を科学技術的に、実践的に担保できることが明白に証明された」
  • 新兵器の意義:「反共和国核戦争脅威と朝鮮を徹底して統制し、いかなる軍事的危機にも攻勢的に対応し、共和国の安全を守護する核戦争抑制力」
  • 今後の方針:金正恩が「強力な核戦争抑制力を質量的に、持続的に強化していくとの我が党と政府の戦略的選択と決心は確固不動・・今後も我々は引き続き国防力を強化していくことに国家のすべての力を最優先的に集中していく」と言明
  • 記念写真:金正恩が「(発射に携わった)赤い旗中隊戦闘員達と主要国防科学幹部達を愛の胸に抱いて意義深い記念写真を撮影」
  • まとめ:「強力な正義の核宝剣は、米帝国主義とその追従勢力の軍事的虚勢を余すところなく打ち崩し、我が革命の勝利的前進と子孫万代の永遠の安寧を頼もしく守護することになるであろう」

 なお、昨日の時点では、同ミサイル発射に関する韓国軍の発表は、24日午後2時34分頃、順安飛行場付近から東海(日本海)に向け、ICBMを発射、最高高度約6,200㎞、射距離1、080㎞、飛行時間70分(推定飛距離1万5、000キロ以上)、というもので、機種については、先般来実験を繰り返してきた新型の火星17型ではなく、2017年11月に発射された火星15型(ないしその改良版)の可能性が大との推測が有力であったと報じられていた(この時は、最高高度4、475㎞、射距離950㎞、飛行時間53分で、推定射距離1万3,000㎞以上)。

 また、本日、上記の北朝鮮報道があった後にも、韓国軍の中では、24日に実際に発射されたのは「火星15」であり、今次報道は、16日の「火星17」の3回目の発射実験失敗を挽回するため、以前の「火星17」発射時の写真を利用するなどした虚偽報道ではないかとの見方が強いという(聯合通信記事)。

 しかし、今次報道に添付の写真には、金正恩と「火星17」が一緒に写っている場面や同人が成功を喜ぶ場面などもある。また、今次報道の内容は、前述のとおり、今次発射に際しての同人の指導ぶりを大いに喧伝する内容になっている。仮に、今回の報道が虚偽であるとすると、金正恩をそうした虚偽報道の材料に使っていることになるが、単なる見栄のためにそのような「恐れ多いこと」をするとは考えられない。

 前述のような「虚偽報道」説の背景には、16日の実験失敗のわずか8日で、失敗原因を解明・解決して新たな実験を行うことが可能かという疑問があるようである。確かに、その点は、17日の本ブログでも、「今次失敗の原因解明とその解決措置に全力を挙げ、それができ次第、改めての再発射を行うと考えられる。それにどれくらいの時間を要するのか、更に、それを踏まえての衛星打ち上げが太陽節までに可能なのか、大いに注目される」と指摘したところである。逆に言えば、それが出来たということは、実に驚嘆すべきことといえよう。金正恩が前述「親筆命令書」に「勇敢に打て」と書いたのには、「再度の失敗を恐れず」という含意が込められていたためかもしれないし、同人の報道のような「細心の指導」も、そうした失敗を踏まえてのことであったとも考えられる。

 いずれにせよ(仮に今回発射されたのが「火星15」であったとしても)、軍事技術的には、北朝鮮が従前に比してはるかに長射程の大陸間弾道ミサイル保有するに至ったということ、また、政治外交的には、先般の政治局会議で「検討」を決めた大陸間弾道ミサイル等の発射モラトリアム「中断」に踏み切ったということの意義は、非常に重大であろう。

 その意義については、諸々の視点から論じることができると思うが、とりあえず北朝鮮がこのたび、このような挙に出たことの重要な背景として、ウクライナ事態(新冷戦状況の顕著化)と韓国の大統領選挙結果を通じた政権交代という北朝鮮にとっての国際環境の変化を挙げておきたい。そうした状況は、金正恩にとって、先般来の国防建設加速方針の背中を押してくれる「鼓舞的」なものとして、受け止められているとみられる。