rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

2022年3月26日 政論「偉大な人民の矜持、空土にあふれる」

 

 標記政論は、24日の「火星17」打ち上げ成功を称えたもの。例によって長文であるので、目についた表現だけ、つまみ食い的に紹介したい。

 まずは、実験成功の報道を受けて、全国に「万古絶世の金正恩将軍万歳、万々歳の轟くような歓呼の声が沸き上がっている」として、「朝鮮の空がより高くなりました。それだけ我々の自尊心もより高くなり、何であれ決心さえすればやり遂げることができるとの信念が大きくなりました」といった人民の声を紹介している。

 そして、試験射撃を命じた金正恩の親筆命令書に書き込まれた「祖国と人民の偉大な尊厳と名誉のため勇敢に打て!」との言葉に脚光をあて、「尊厳と名誉は歴史と共に最も神聖で厳粛な言葉として使われてきた。それがなくては、息はしていても死んだ者になるのがまさに尊厳である」として、今次発射の意義を「尊厳」「名誉」の次元で強調する。

 その上で、「自身の労苦と献身で祖国と人民に尊厳と名誉を抱かせて下さった偉大な我々の将軍」の業績を強調するだけでなく、「敬愛する金正恩同志は、我が祖国の偉大な尊厳の代表者であられ、その方の絶対的権威はすなわち万邦に輝く人民の名誉である」として、同人を人民の「尊厳」「名誉」の体現者として位置づけている。

 また、「『火星砲-17』型には敬愛する総秘書同志の高い志を期して最後まで決死貫徹してきた国防科学戦士たちの熱血の精神力が込められている。彼らのように生き、働こう」として、各分野で働く人々に対し、「敬愛する総秘書同志の愛国献身の歩みに歩幅を合わせ、頼もしい国防科学戦士たちと心の中で熱く肩を組み、我が国家のため、我が党のため、我々の金正恩同志のため力と知恵、血と汗を惜しむことなく捧げよう」と最大限の奮闘を呼びかけている。

 なお、本日の「労働新聞」は、同政論のほかにも、「敬愛する総秘書同志を高く奉じ祖国と人民の尊厳と名誉、万邦に輝く」の共通タイトルの下、打ち上げの意義を論じる評論に加え、「強国の公民となった自負心で血が沸き新たな力が湧きあがる」と題した人々の反響紹介記事、更に、「宇宙万里に届く不可抗力 必勝の信念百倍にしてくれる」との共通タイトルの下、製鉄、建設現場などの発奮ぶりを紹介する記事などを多数掲載している。

 こうした政論の主張をはじめとする報道ぶりは、金正恩立ち合いの下で行われた1月12日の極超音速ミサイル発射実験の際には見られなかったもので、今次発射については、北朝鮮としても、格別の意義付けをしていることがうかがわれる。そのことは、通例の試験発射を伝える記事の見出しが、「・・を実施(直訳すると進行)」であるのに対し、今次実験については「断行」となっていることにも示されている。

 やはり、大陸間弾道ミサイルの発射モラトリアムを破棄することについては、それなりの政治的決断があったということの反映といえるのではないだろうか。

 ただ、上記のような報道からは、その狙いとして、巷間指摘されている対外的(米国に対北姿勢軟化を促す)なものに劣らず、人々の「尊厳」を満足させることによる金正恩の威信強化、勤労意欲喚起といった国内的側面が存在したことがうかがえる。

 もちろん、両者は排他的なものではなく、どちらなのかといった議論は、余り意味がないと思われるが、現実的な効果として、こうした実験の結果、米国が北朝鮮にとって望ましい方向に姿勢を転じるとは到底想像できない(現実にも、制裁強化を主張している)。それについて、北朝鮮指導部だけが楽観的な期待を抱いていると考えることはできず、むしろ、昨日の報道にもあったように「米帝国主義との長期的対決」を覚悟の上で、それに「徹底して準備していく」ための決断であったと考える方が現実的ではないだろうか。