rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

11月25日 金正恩西部戦線黄海南道)昌鱗島防御隊を視察

 

 金正恩が韓国との最前線に位置する黄海上の島嶼部隊を視察したことが久々に報じられた。

 同報道に関し、韓国では、金正恩が視察において防御隊海岸砲の実射を命じたこと、訓練の強化を指示したことなどを取り上げて、米朝交渉の期限切れを目前にして、米韓への圧力をかける狙いによるものとの見方が取りざたされ、韓国軍も同島からの砲撃は南北間における緊張激化防止のための合意に反する行為との見方を示している。

 11月23日が黄海上の韓国領・延坪島北朝鮮が砲撃した事件の発生9周年にあたることも踏まえると、金正恩の今次島嶼部隊訪問に軍事的意味合いが含まれていることに間違いはないであろう。

 しかし、同報道全体を客観的に見ると、金正恩の今次視察の主な狙いは、必ずしも軍事挑発的なものではなく、むしろ軍部隊における給養の確保や規律の維持などにあることがうかがわれる。そのように判断する根拠は次のとおりである。

 まず昌鱗島防御隊における視察行動の概要については、「防御隊指揮部と中隊兵室(居室)、教養室、食堂、豆倉庫、副食物倉庫、(野菜栽培用)温室、風呂場、火力陣地、監視所など島哨所の諸対象を巡回され、軍人たちの生活実態と防御隊の戦闘準備態勢を具体的に了解された」と報じられている。視察の対象として、「軍人たちの生活実態」が「戦闘準備体制」よりも先に掲げられており、記事全体に占める割合でも、前者に関するものが後者に関するものよりもはるかに多いのである。

 前者について具体的に紹介すると、中隊兵室においては「軍人に供給される歯ブラシ、歯磨き粉、石鹸をはじめとする生活衛生品と毛布、被服に対して一つ一つ了解」し、豆倉庫、副食物倉庫、炊事場などでは「たっぷりと積まれた後方(補給)物資実態をご覧になって多大な満足を表示」し、温室においては、「温室営農を奨励していくための課題」を与えるなどしたとされる。

 その上で、後者に関し、「今日のような平凡な日に予告なく訪問したが、皆が警戒心も高く前線警戒勤務を遂行しているのを見て、心が休まる」と同部隊の勤務状況を誉め、目標地点を与えて海岸砲を実際に射撃することを指示したのである。ここで、同訪問が予告なしのものであったとされるが、確かに報道された同行者・出迎え者の中に、通常の部隊訪問の際にはしばしば見られる軍団長などの上級指揮官が含まれておらず、抜き打ち的に行われた可能性も否定できない。

 また、軍全体の課題として、「武器・戦闘技術機材の動員準備を常に円満に備えておくよう、技術設備、技術管理を責任を持って行い、正常的(定期的の意)に検閲し(問題があれば)対策する体系を整然と立て、任意の単位が任意の時期に戦闘任務遂行に動員され得るように徹底して準備されていなければならない」と述べたとされる。

 以上のような金正恩の行動・発言などからうかがわれるのは、彼の軍に関する主な関心は、軍人に対する食糧、被服などの生活必需物資の供給(食料の自給体制も含めて)の確保及び平素における軍人の勤務状況及び武器その他装備の整備状況(実戦で稼働し得る状況に保たれているか)にあるということであろう。

 要するにこの記事が物語っているのは、端的に言えば、金正恩は、末端の部隊においても軍人がまともに生活できているのか、兵器がちゃんと使える状態に保たれているのか、ということが心配で抜き打ち的に最前線部隊を訪問し、今回はとりあえず安心できたということではないだろうか。

 ちなみに、金正恩の軍部隊視察時における上記のような行動(軍人生活関連部分に対する視察・言及)は今回に限ったものではなく、通例的なものといえる。上述のような問題に対する彼の懸念が継続的なものであることを示すものといえよう。