rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

11月26日 論説「率直さと愚直さは革命家の重要な品性」

 

 金正恩は幹部の「面従腹背」的姿勢について根深い懸念を抱いているのではないかとの仮説をかねて抱いてきたが、それを裏付けるような論説が掲載されたので、簡単に紹介したい。

 同論説は、「長久の我々の革命歴史においては忠臣も多かったが、表では党を奉じるようなふりをし、後ろでは私利と功名だけを追求した偽革命家もいた」「このような人々は、党の思想と路線、政策について議論することを好み、執行においても内容より形式により重きを置いた。また仕事がうまくいっていないことを分かっていながら党に心配を掛けるからと言って嘘の報告を上げ、ほらを吹くことも躊躇しなかった」との経験を指摘し、その轍を踏まないためには、革命家すなわち幹部が常に率直、愚直でなければならないと主張している。

 また、かつて金正日が「ほら吹きは例外なく功名出世主義者であり、おべっか使いである」とし、「ほら吹きが特に危険なのは自分を誰よりも党性が強く党と革命に忠実な人間として仮装して出てくることにある。ほらを吹く現象に対しては絶対に黙過したり軽視したりしてはならない」と述べたとしている。

 そして、論説は、この問題が今日特に重要なのは、情勢が厳しくなっているためであるとして、「うわべとおべっかが多く要領の良い人々は、順調な時期には熱誠を示し万歳を叫ぶが峻厳な情勢になると例外なく党の権威、革命の利益よりも一身の安楽をまず考え、後には党と革命に背信する道に陥落する」と指摘する。

 また、別の表現としては、「革命家の良心に垢が付けば、自分でも分からないうちに党と外交(駆け引きの意)をし、同床異夢する背恩忘徳の人間、首領の信頼を裏切り機会主義的に行動する鉄面皮な人間になってしまう」とも言う。

 このような論説が掲載されたことを持って、ただちに党内で特定の人物ないし勢力に対する粛清的な動きが進んでいることの反映とみるのは早計であろう。むしろ、幹部一般が潜在的に抱える体質のうちに、厳しい情勢に直面した場合などにおいて保身を重視する余り、意図せずして変節的行動に陥る可能性があること、とりわけ、そのような体質は、平素において「うわべ、おべっか、ほら吹き」などをよくする者に顕著であることを戒めるものと考えられる。冒頭に述べたとおり、それは金正恩が強く感じているところではないだろうか。あるいは、そのような警戒心は、金日成金正日自身の経験も踏まえて、金正恩へと代を継いで伝えられてきた「家伝」なのかもしれない。

 なお、11月22日に紹介した論調では、守旧主義、保身主義などが批判され、「大胆」な取り組みが奨励されていたが、本論説は、それとは正反対の方向からの主張とも言える。かねて繰り返してきたことであるが、両者が相対立する主張であるのか、あるいは相補い合う主張であるのか、興味の尽きない点である。