rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

11月27日 「二項動態」論

 

 10月22日の本ブログにおいて、「相補的接近」と称する分析方法論を提示したが、それに関連する標記の概念を発見したので紹介したい。

 それは、野中郁次郎氏ほかによる『知略の本質』と題する戦略論に関する著書に提示されている。

 同書は、戦争の二つの局面として「機動戦」と「消耗戦」という二つの概念を提示した上で、次のとおり主張している。

 「知略は矛盾解消の弁証法である。流動する関係性のなかから生み出される矛盾を二者択一によって解決するのではなく、どちらも真理だが、どちらも半面の真理でしかないと認め、『中庸』を採る。」

 「(中庸とは)相反しながらも相互補完的な性質を持つ二つの要素は、・・・両者を相互作用させながら、情況と文脈に応じて両者の重点配分を変えつつ、ダイナミックに実践し、有効であることを実証してこそ真理である、という考え方にもとづいている。」

 「つまり、両者の関係は、『あれかこれか』の二項対立(dichotomy)ではなく、両者の利点を生かす『あれもこれも』の考え方にもとづく『二項動態』(dynamic duality)」としてとらえるのである。」

 これは、まさに前掲「相補的接近」論稿において主張しようとしたことである。ただし、本書(野中氏)は、「二項動態」を主に戦争指導の方法論(理想的なという意味で)として提示しているが、私が同論稿で主張したことは、北朝鮮の国政運営の中に伝統的に「二項動態」志向的な傾向が存することを前提としつつ、そのような国政運営の方向性なり成否を正確に分析評価するためには、まさに野中氏の言う「重点配分」なりダイナミクスの推移・現状に着目するべきという、いわば分析の方法論の提示であった。

 いずれにせよ、前掲論稿では必ずしも的確に表現できなかった、すなわち整理しきれなかった概念が同書を通じてより精緻な形で示されたことを嬉しく感じる。また、本書に示された野中氏の指導者論も、非常に示唆に富む興味深いものであり、北朝鮮分析においても大いに活用の可能性が感じられる。今後の課題としたい。