rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

12月7日 社説「全党が白頭の革命伝統で徹底して武装しよう、政論「まばゆい人民の理想郷」

 

 社説は、金正恩白頭山視察の意義を敷衍し、今後、党を挙げて「革命伝統教養」を従前以上に実質的に迫力を持って推進するよう訴えるもの。

 このほか、同日の紙面には、「世界を震撼させた朝鮮の勝戦砲声-白頭山山麓三池渕に開いた天地開闢」との共通題目の下、政論「まばゆい人民の理想郷」をはじめとした三池渕郡邑地区紹介の記事がまとめて掲載されている。同地区整備の壮大さなどを改めて強調・賛美するものである。

 これら社説及び政論・記事などを通じて、金正恩白頭山視察において打ち出された「革命伝統教養」強化方針の背景がより明らかになった。ここ数日間、書いてきたことと重複するが、改めて整理してみたい。

 その第一は、三池渕郡邑地区の整備工事の完了との関連である。両者は、一体的な関係にあるのである。すなわち、同地区に新たに建設された諸施設を拠点として、白頭山戦跡地踏査を従前以上の規模・水準で実施することが可能になったとされる。また、そのような実務的事情にとどまらず、踏査参加者に同地区の壮大な都市景観を金正恩の実績として、また、地方都市の模範として誇示・体感させるという政治的狙いもあると考えられる。つまり、革命伝統教養と言いながらも、参加者は、実は金日成によって指導された抗日闘争先哲の労苦のみならず、金正恩の業績についても、実感することになるのである。

 第二は、外部からの圧迫、浸透への警戒心の高まりである。社説にいわく「今、敵対勢力は・・・我々の前途を妨害しようと必死的に悪事を働いている」「今、敵どもは我が人民の革命的信念、新生代の革命精神を曇らせることに攻撃の矢を集中している。反動的な思想文化的浸透策動と心理謀略戦により我々の内部を思想的に瓦解させようというのが帝国主義者どもの本心である」。このうち前者は主に経済制裁による圧迫を指し、後者は、外国(韓国を含む)文化の国内への流入・蔓延などを指していると考えられる。ちなみに、後者のうち、実態としては、どれだけが「帝国主義者の策動」(例えば、韓国の脱北者団体による電子媒体の送り込みなど)によるものであるのか、単なる密輸業者等による金もうけのためのものであるのか、あるいは北朝鮮住民の好奇心などに基づくものかなどは定かでないが、北朝鮮当局としては、すべて「帝国主義者の策動」ときめつけたいのであろう。

 第三は、前項とも関連するが、北朝鮮国内各層の思想の在り方に対する危機感ないし不満の高まりである。本ブログで以前に指摘したところであるが、過去の辛い経験を知らない「新世代」に対する危惧が同社説でも繰り返されている。もう一つの問題が、率先して「白頭山大学」で学ばなければならないとされた「革命の指揮メンバー」すなわち「幹部」の姿勢であろう。これについて金正恩が先般来、不満を募らせてきたことは本ブログで重ねて指摘してきたとおりである。

 ところで、金日成による白頭山での「革命闘争」すなわち「抗日パルチザン闘争」の「伝統」とは実体的に何を意味するのだろうか。もちろん、金正恩が今次それを打ち出す中で強調したいことは、「非常な困難な中でも挫けず闘争を継続し、最後は勝利に至った」ことであり、それ以上の含意はないのかもしれない。

 しかし、史実に即して考えると、金日成は、時に機会を見て存在をアピールすること(普天堡戦闘)はしたが、基本的に、日本帝国主義に無理な決戦を挑んだりはせず、「生存」を優先して「苦難の行軍」など転戦(要するに逃避行)を続け、最後はソ連領に逃げ込んで、ソ連軍傘下の部隊(「第88旅団」)に編入される中で軍事技術等の習得に努め、日帝の敗北による「解放」を迎えることができたわけである。

 それを現在の情勢に即して置き換えると、当面は米帝との決定的軍事的衝突などは避け、「新冷戦」の深化を利用して中国の庇護を受けつつ、「自力更生」で長期持久体制を構築、国力の強化を進め、米帝の衰退を待つ、との戦略が考えられる。

 そこまで金正恩が考えているかは定かでないが、客観的に見ると、北朝鮮にとって、それほど悪くない戦略のようにも思える。彼がそういう意味で先代の「革命伝統」を賢明に継承するなら、「交渉戦術」の域を超えた無謀な対米挑発などの挙に出る可能性は極めて低いと言えよう。