rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

12月18日 政論「漁郎川の英雄神話」

 

 去る12月4日に竣工式を迎えた漁郎川発電所八郷ダムの建設を題材に、そこでの取り組みぶりなどを称える内容。

 同ダムについては、昨年7月17日、金正恩が現地指導した際、着工以来17年が経過しているにもかかわらず、建設工事が停滞しており、全体の70%しかできていないこと、それにもかかわらず、内閣の責任者が指導・督励などのために直接来訪したことがないことなどに激怒し、今後は党中央の指導下、翌年(つまり2019年)の党創建記念部(10月10日)までに刊行させるよう厳命した旨が報じられた経緯がある。

 その後、本年7月19日に金才竜総理の現地了解を経て、金正恩の命令には間に合わなかったものの、それから約2か月遅れで上述のとおり竣工したものである。竣工式では、朴奉柱党副委員長が出席しているにもかかわらず、序列的にはその下位の金総理が竣工辞を述べている。金正恩の指示にもかかわらず、内閣が「名誉挽回」のため相当頑張ったことを反映しているのかもしれない。

 同政論の題目となっている「神話」の趣旨は、金正恩が昨年の現地指導の際、「白頭山で燃え上がった英雄神話創造の火の手を咸鏡北道に移し燃やさなければならない」と述べて同工事の促進を命じたとされることを受けたものである。「様々な原因で17年がたっても総工事量の70%しかできていなかったダム工事が今日のような困難な時期にわずか1年余りの短い期間に完工されたことは、実に一つの驚異的な事変」であるとして、金正恩の指導ぶりとそれを実践した関係者の奮闘を感動的に描写している。

 本ブログでもこれまで紹介してきたところであるが、今年の北朝鮮の代表的な大規模建設成果といえば、三池渕郡邑地区(完工後「市」に改称)の整備、仲坪野菜温室農場・養苗場、陽徳温泉文化保養施設とこの八郷ダムの四つとなろう。いずれも、金正恩の直接的な指導・督励を受けた対象である。

 そのような現象は、金正恩の強力な指導ぶりを際立たせるものともいえるが、換言すると、金正恩の直接的な指導・督励があってはじめて、大規模な建設を円滑に進めることができろということを物語っているとも考えられる。ここで、金正恩の指導・督励とは、そのこと自体にとどまらず、あるいはそれ以上に、それを根拠として建設に必要な資金・資材・労働力などを優先的に配分されるようになることを意味すると考えるべきであろう。それらの調達可否が建設推進の大きな隘路でもあり、促進材料にもなるのではないだろうか。

 そうであるとすると、上述のような「驚異的な事変」の陰では、その割を食う形で、必要物資等の供給を後回しあるいは削減された単位も少なからず存在することになる。結果として、国全体で見た経済建設においてそれが合理的・効率的な資源配分であったのだろうか。

 もちろん経済の重点部門あるいは隘路となっている部門などについては、優先的資源配分が有効な場合もあるかもしれない。しかし、ダム建設はともかく、豪華な住宅・休養施設等の建設についてはどうか。「人民生活重視」路線の印象付けという政治目的、それによる人民の士気向上まで勘案すれば、総合的には合理的な判断ということになるのであろうか。悪く言うと、こういった恣意的な資源配分に北朝鮮の経済的混迷の構造的原因が存するのではないかとも思うのだが、経済専門家の評価をうかがいたところである。