rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

12月26日 「党政策貫徹のための道の間の競争ニュース 全社会に教育と人材を最優先視する気風、紀綱を確立していこう 年間道、市、郡の教育事業順位を見て」

 

 本日付け「労働新聞」には、標記の題目の下、7件の記事が掲載されている。そのうち、「競争」の全体像を明らかにしているのが「全面的に責任を負い、身を捧げようとの覚悟にかかっている」と題する記事である。

 同記事によると、「道教育事業順位は、初等及び中等教育事業部門、教員養成事業部門、高等教育事業部門、教育条件保障事業部門に分かたれ、部門別、項目別評価指標と評価方法を具体化し、道教育事業評定要綱にしたがって定め、市(区域)、郡の教育事業順位は、初等及び中等教育事業部門、教育条件保障部門について定めた」とされる。なお、ここで、平壌などの直轄市は道のクラスに、平壌市内の各「区域」は市・郡のクラスに、それぞれ含まれ、全体で2段階での「競争」が行われたわけである。

 その結果は、道クラスでは、平壌市が上述4部門のうち教育条件保障部門を除く3部門で1等となり総合1等となり、以下、平安南道が総合2等、平安北道が総合3等であったという。一方、最下位となったのは両江道であり、順位は明示されないが、咸鏡北道がそれに近い成績であった模様である。

 記事は、題目に示されているとおり、このように各道の成果を分けた要因について、「責任幹部が党の教育革命方針貫徹のための組織事業と掌握総括事業を実施しつつ教育と関連した事業をどれ一つ漏らすことなく頑強に打ち出した道では例外なく成果が成し遂げられた」として、各地域の教育部門そのものよりも、それを指導する当該地域の責任幹部(高位幹部)の指導ぶりに焦点を当てている。要するにトップが自ら教育分野に対し、強い関心を払い積極的に指導督励してこそ成果が上がるというのである。

 したがって、「これとは対照的に教育事業において後位を占めている道」においては、彼らが教育分野に本腰を入れず、「敗北主義に捕らわれ、条件多発ばかりして」いると酷評している。ここで「条件多発」とは、「それをするには、何々が必要だが、それがない」などと、できない口実を色々と設けて、積極的に取り組まない姿勢を批判する表現である。具体的には、「両江道では、教育事業を道的な事業(道全体としての事業)へと転換させることができず、ほとんど教育部門関係者にだけ任せておく」ようなやり方であり、また、「咸鏡北道でも、教育事業判定要綱を市、郡に示達するだけで終わり、部門別、項目別評価基準にしたがって立てるための市(区域)、郡別競争を実質的に組織できなかった」という。

 競争結果の順位において、上位を平壌など比較的発達した平野地域が占め、逆に下位はいずれも地方遠隔の山間地域であり、地域の経済力が影響しているのではないかとも思えるが、以上のような記事の内容は、そのような考えを「敗北主義」「条件多発」として退けるものともいえる。それが果たして公平・妥当な評価なのかは判然としないが。

 記事は、以上を総括して、「教育事業と関連した問題を会議で強調することで終わらせ、急ぎ処理すべき事業が多いと言って、教育発展のための実質的な対策を立てない幹部の無責任な態度と仕事ぶりは、該当地域はもちろん国の全般的な教育発展に実に大きな影響を及ぼしている」と批判した上で、「(金正恩の)教育事業を社会主義強国建設の第一重大事として打ち立て、革命発展と時代の要求に合うよう新世紀教育革命を起こし、教育の質を決定的に改善するための遠大な構想」に尽力すべきことを訴えている。

 次に、それでは、以上のような競争によって目指された整備とは具体的にどのようなものであったのか、それをうかがわせるのが「教育方法を時代的要求に合わせて」と題する記事である。同記事が紹介する各地の模範的整備の実例には、「情報技術科目教員と教授資質が優秀な教員によってプログラム講習を組織」「学生の素質と個性を積極的に発揚させることができる多くの課外サークルを設立」「実践実技と実験実習、技能訓練の比重を高め、学生たちに生きた知識を習得させること」「実験実習室が新たに設けられ、全国的に既設の実験実習室を情報化、現代化するための事業」などがある。

 端的に言って、科学技術面に重きが置かれていることが分かる。教育における科学技術分野重視の方針は、そこに掲載されている「世界に先駆ける抱負と理想を抱いて」と題した記事が金策工業総合大学を紹介したものであることからもうかがえる。同記事によると「(同大学は)我が党が一番信じ、自慢し、押し立てる大学中の大学」とされている。

 さらに、そこには、そのような教育環境整備の結果としての学力に関する記事も掲載されている。「学科実力の差異は何を示しているのか」と題する記事は、地域ごとの教育成果について、「その結果は、今年の大学入学試験に応試した学生の平均成績を分析してみれば、よく知ることができる」と率直に述べている。

 なお、ここで成績優良な地域として挙げられているのは、「普通江区域、平川区域をはじめとした平壌市の諸区域、成天江区域、東興山区域、順天市、平原郡、元山市」(地名一部音訳)などである。ここでも、やはり都市部が優位な印象を拭えない。

 しかし、同記事は、地域によって学力の差異が生じるのは、「(当該地域の幹部が)教育条件と環境改善など可視的な成果にだけ重きを置き、学生の実力を高める問題を死活的な要求として提起しなかったため」であるとする。

 その上で、成績の劣る単位に対しては、「学生の実力が低い学校と地域の教育者たち、幹部たちは奮発しなければならない。すべての教員は資質向上に血が出る努力をしなければならない。特に、幹部は学校の教員陣営を強化することに力を注ぎ、教育者が教授教育事業と資質向上事業に専心できるよう条件と環境を充分に準備してやり、一日も早く先を行く教育単位に追いつき追い越すようにしなかればならない」と発破をかけている。

 この記事からは、各学校、地域単位で大学入試成績の統計が作成され、順位付けがなされ、更には、同結果が当該学校教員及び地域の教育部門関係者の論功行賞にも影響していることがうかがえる。北朝鮮も、相当厳しい学力競争の時代に入りつつあるのかもしれない。余談であるが、前述のように成績優良地区を「区域」単位で明示して社会的影響はないのであろうか。韓国では、同様の地域の住宅価格が高騰して問題になっているようだが。

 金正恩の施策の特徴の一つが科学技術部門を主とした教育改革であることは、執権1年目にして学制改革を断行したことからも明らかであるが、以上のような記事からも、そのような方針が国を挙げた形で引き続き粘り強く推進されていることが分かる。その取組み状況及び成果は、いまだ地域によって差異が大きいこともうかがえるところであるが、この記事のような形で各地の責任幹部に結果責任を問うことにより、今後は、後進地域においても、相当の取り組みが促進されるのではないだろうか。