rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

1月12日 「正面突破戦」の展望(対米姿勢を中心に)

 

 「正面突破戦」の基本的特徴についての評価は、1月10日の本ブログで示したところであるが、本稿では、北朝鮮がそのような基本戦略の下で、今後、対米関係をいかに展開していくかについて展望したい。

 昨年末、「正面突破戦」を策定した北朝鮮は、現在、その趣旨の国内各層への伝達・浸透に努めている。そのための活動において強調されているのは、従前のような「暗記式」「読経式」(単に関連文書の暗記や読み上げで終わらせること)に陥ることなく、各組織・単位の抱える問題点・不足点などを徹底的に分析(自己批判)・摘出した上で、その打開・克服をはじめとした「正面突破戦」の掲げる課題をいかに実践していくべきかを具体的に計画・策定し、任務分担等を定めていくことである。そのようないわば「痛みの伴う作業」に実効的に取り組ませるためのテコが対外関係における緊張感の高揚であることはこれまでの本ブログにおいて既述のとおりである。

 したがって、少なくとも、上述のような伝達・浸透作業が完了し、それに基づく具体的な取り組みが軌道に乗るまでの間、それを推進する対外的緊張感が弛緩することは、北朝鮮指導部にとって必ずしも望ましいことではないと考えられる。そのような点からすると、今後当分の間、北朝鮮が対米交渉に積極的に取り組むとは考え難く、いわんや交渉内容において従前の主張から実質的な譲歩を行うことは期待できないであろう。1月11日付けで出された金桂官外務省顧問の「談話」は、そのような北朝鮮の姿勢をかなり率直に反映したものともいえよう。

 しかし、それはあくまでも当面の対応であって、「正面突破戦」の基本戦略そのものではない。「正面突破戦」が最終的に目指すのは、「自力更生」の成果を上げることによって「経済制裁が無用のもの」であることを見せつけ、同時に北朝鮮の軍事力が時間の経緯とともに強化されることを誇示することによって、米国に現在の政策(北朝鮮の認識では「朝鮮敵視政策」)の放棄・転換を迫ること、すなわち米朝関係の抜本的改善である。そのような目的を「国の安全を売り渡す」ことなく実現するための戦略が「正面突破戦」である。

 したがって、北朝鮮の対米姿勢に関し当面注目されるのは、軍事力強化をいかなる形で示すか、であろう。端的に言えば、核実験をはじめとした核兵器開発に直接つながる活動又は米国本土に到達し得る長距離弾道ミサイルの試射などの活動を行うのか否かである。現在までのところ、北朝鮮の公式の発表・報道などは、その可能性を示唆しつつも、直接的な言及は控えている。

 大胆に予測すると、私は、北朝鮮は、当分の間、そのような活動の実行は差し控える可能性が高いと考える。

 その第一の根拠は、「正面突破戦」が「長期戦」とされていることである。すなわち、彼らの戦略は、前述のとおり、「自力更生」の成果誇示と軍事力強化を並行して米国に圧力をかけることである。そうであるならば、前者の効果が示されるまで一定の期間が必要であり、その面での効果が示されていない状況で、後者だけを突出させることは、過早な冒険主義的行動ということになろう。

 第二の根拠は、そのような活動に出た場合、中国、ロシアなどからの外交的支援を弱化させ、場合によっては、反発を招くおそれさえあることである。とりわけ、貿易などで圧倒的な依存関係にある中国との関係は重要であろう。現在の比較的良好な中朝関係は、北朝鮮の「非核化交渉」継続(あるいは「非核化」の原則的受け入れ)を前提としていると考えられる。同交渉が双方の主張の違いによって停滞している状況はともかく、北朝鮮の側の一方的活動によってそれが破たんに至った場合は、中国の対北朝鮮姿勢の悪化は不可避であり、それは、北朝鮮にとっても深刻なダメージとなろう。

 第三の根拠は、南北関係に与える影響である。周知のとおり、韓国の文政権は、北朝鮮の厳しい対韓姿勢にもかかわらず、対北朝鮮宥和路線を堅持しており、韓国内各層においても、北朝鮮との交流活発化などへの期待・要求が根強く存在している。政権の一角からは、「米国が対北朝鮮政策において強硬姿勢を改めないなら、文政権は独自の道を選択すべき」との声さえ漏れ出している。しかし、このような北朝鮮への宥和姿勢は、北朝鮮が原則的にであっても「非核化」を認めていることが前提であり、そのような立場を公然と翻した場合、そのうちの多くは、一挙に冷却化することが予測される(あくまでも北朝鮮に共調する勢力も一部残るであろうが)。

 そして、最後の根拠として、何よりも、北朝鮮がそのような過激な活動に出た場合、上述のように中国、ロシア、韓国などからの支援を失った状況においては、米国(とりわけ再選を前にしたトランプ政権)からの予想外の反発を招くリスクが一層、高まるということを指摘できる。現在の北朝鮮にそれだけのリスクを敢えて冒す必要があるとは考え難い。繰り返しになるが、前述のような「正面突破戦」という「長期戦」シナリオによって、充分な勝算があるというのが北朝鮮の認識である。このまま推移すれば「ジリ貧」になるだけとの発想であれば、冒険主義的「賭け」に出る可能性もあろうが、北朝鮮の現状認識はそうではないのである。

 以上のような長期・構造的な意味において、(米国側から打ち切らない限り)米朝交渉は、一時的な停滞・中断はあったとしても、基本的にその枠組みは維持されるであろうというのが、現時点における展望である。