rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

1月21日 共同論説「白頭山攻撃精神で醸成された難局を正面突破しよう」

 

 党機関紙『勤労者』との共同論説として掲載。この形での論説掲載は、昨年秋以来3回目となるが、指導部としてとりわけ強調したい内容を盛り込んだものであることはいうまでもない。「正面突破戦」の趣旨を敷衍・解説する記事は、既に多数発表されているが、本論説の特徴は、従前多用されていた「白頭山精神」との表現に「攻撃」の二文字を加えた「白頭山攻撃精神」との概念を打ち出したところにあると思われる。

 全体構成は、その「白頭山攻撃精神」の趣旨、特性を論じた前半部分(1)と同「精神」を具現していく上での課題を論じた後半部分(2)からなる。

 1では、まず「白頭山攻撃精神」の意義を次のとおり説明している。

 「白頭山攻撃精神は、①前進途上に置かれた障害と難関を正面から受け止め、突破していく頑強な突撃精神であり、②主体的力、内的動力をくまなく強化し自分の遠大な抱負と理想を実現していく自力更生の精神であり、③瞬間の沈滞や足踏みもなく革命を絶え間なく飛躍上昇へと推動する継続前進、継続革新の精神である。」(①~③は引用者挿入)

 韓国の報道などを見ると、以上のうち、①の「頑強な突撃精神」までだけが引用される例があるようだが、それではいかにも「当たって砕けろ」といった冒険主義的な印象を与えかねない。しかし、それに続く②、③部分を併せて、全体をみれば、むしろ、困難に妥協することなく、粘り強く努力を続けることを訴えるものであることが分かる。なお、②で用いられている「主体的力、内的動力をくまなく強化」との表現は、16日の社説で論じられたものであり、幹部の意識改革をうながすような趣旨で用いられていることは本ブログで検討したとおりである。

 論説は、その上で「白頭山攻撃精神」の特性として次の3点を挙げる。これらは、上述の①から③をそれぞれ敷衍したものといえよう。

 第一に、対外姿勢について、「敵対勢力どもの悪辣な策動を粉砕し、国と民族の自主権を固く守護するようにする強力な宝剣」としている。そして、そのような姿勢を正当化する根拠として、「国と民族の運命を会談テーブルの上に載せて譲歩と妥協を云々した結果、自主権を蹂躙された国々深刻な教訓は、自主的に生きようと決心を持ったならば、ひたすら徹底して、頑強に、最後まで全面攻撃しなければならないことを示してくれる」ことをあげている。

 これは、まさに対外強硬姿勢の誇示といえる。ただし、敢えて言えば、かつて「国と民族の自主権を守る宝剣」として核兵器を主張していたことと比較すれば、「白頭山攻撃精神」によってそれが代替されたことは、「良いニュース」であろう。また、「教訓」についても、必ずしも「交渉」そのものを否定するものではなく、そこで「譲歩と妥協」を行うことを批判したものと考えれば、今後、相当ハードルを挙げてくることを想定させるにせよ、交渉の可能性を完全に閉ざしたものと解する必要はないであろう。

 第二の特性は、国内的な努力に関するもので、「いかなる試練と難関の中でも自らの力で富強繁栄の活路を開くことができるようにする原動力」ということである。これは、まさに「自力更生」路線を改めて強調するもので、同路線の正当性は、昨年の経済建設実績によって証明されたと主張している。

 第三も、前項と同様、内政面に関するもので、「我が革命が打ち出した遠大な目標と崇高な理想を一日も早く実現できるようにする思想的源泉」であるという。前項が主に困難の克服という面に焦点を当てたものであるのに対し、ここでは、「我々が提起した目標は、単純に目前の危機を解消しようとするものではない」として、長期的な視点で将来へと継続させる側面が強調されているといえる。

 2では、同思想の具現化について論じている。まず、その具現化の必要性を論じるために、「革命の継承は、本質において思想の継承、闘争精神の継承である」、「今日の世代が先烈たちの闘争精神と気風で生き闘争し、次の世代がそれを引き継いで行く過程で革命は勝利の終着点に到着するに至る」として、世代間での思想継承の重要性を強調し、そこで継承されるべき思想がまさに「白頭山攻撃精神」であると主張する。その具現・徹底のための課題として指摘されているのは、次の3点である。

 第一の課題は、「全国に革命伝統教養の強い風を起こすこと」で、これは「全国民を白頭山攻撃精神で武装させるための先決条件」とされる。その中心が「白頭山革命戦跡地踏査行軍を通じた革命伝統教養を実質的に行うこと」であることはいうまでもない。

 第二の課題は、「生産も学習も生活も抗日遊撃隊式に行うこと」である。ここで「生産を抗日遊撃隊式に行うこと」とは、「司令官同士の命令指示を貫徹する前には死ぬ権利もないとの決死の覚悟を持っ・・・た抗日遊撃隊員」のように「託された革命課題を無条件に最後まで貫徹すること」とされる。「絶対性、無条件性、堅忍不抜」が求められているのである。

 同様に、「学習を抗日遊撃隊式に行うこと」とは、「いかに困難で複雑な環境においても党の思想理論と科学技術で武装するための学習を粘り強く行うこと」であり、「生活を抗日遊撃隊式に行うこと」とは「生活を革命的に、文化的に、楽天的に、倹約質素に行うこと」とされる。ここで後者に関する説明の中には、「我々式社会主義を蝕む反社会主義、非社会主義現象との全面的で強度の高い闘争」なども含まれる。

 第三に、同思想の具現化にあっては、「幹部が占める役割が非常に重要」であることを強調し、幹部がそれを自ら進んで率先垂範することを求めている。

 論説は、結論として「白頭山攻撃精神で前代未聞の峻厳な難局を全面突破し、国の自主権と最高利益を最後まで守護し、自力富強、自力繁栄の活路を開いていこうというのが我が党の揺るぎない信念であり意志である」としている。

 以上紹介した論説の概要に基づき、同論説の狙い、とりわけ、①「攻撃」の二文字が加えられたことの意味、②そのような論説が今日「共同論説」の形で発表されたことの背景、について検討してみたい。

 まず、①については、端的に言って、従前の「白頭精神」なり「正面突破戦」なりの概念の下での主張と比べて、この論説の主張に実質的な変化は認められない。むしろ、従前の様々な主張が包括的に盛り込まれているといえる。結局のところ、「攻撃」の文字は従前の主張を一層強調するための修辞に過ぎないと言っても過言ではないであろう。換言すると、従前以上に「敵の脅威」「緊張激化」を国内に強く印象付け、それに対する反発を原動力として、日々の経済活動における奮闘を促すという戦略である。論説の結論として引用した文句は、そのような「党」すなわち金正恩の「意図」を、明確に表現したものといえよう。

 ②については、元旦以来、党中央委員会会議決定の伝達・宣伝・学習などが様々な形で繰り返された後の今になって、何故そのような強調が改めて必要であったのかということが問われなくてはならない。一つの仮説としては、前述のような伝達・学習活動などにおける結果・反響が指導部の期待に沿うものではなったため、という理由を挙げることができよう。そのような社会的雰囲気を察知したとすれば、指導部としては、今回のような論説を発表し、それを学習させることによって、「正面突破戦」の趣旨を改めて徹底することを期するというのはありうる話と考えられる。あるいは、そこまでの状況ではなく、単に念のための更なる学習・宣伝の技法であるのかもしれないが。

 いずれにせよ、前述のような狙いの下、北朝鮮による対外強硬姿勢のアピールは今後ますます活発化することが予測されるが、その真のねらいは、あくまでも、それを契機とした国内動員(具体的には、前述のような「抗日遊撃隊式」をスローガンとした生産・学習・生活の改善)にあることに留意する必要があることを改めて指摘しておきたい。