rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

2月8日 社説「朝鮮人民軍は党の偉業に無限に忠実な革命的武装力である」

 

 今日は、朝鮮人民軍が1948年2月8日に発足して72年目にあたる軍創建記念日ということで、標記社説は、それに際して掲載されたものである。

 社説は、大別すると、①金日成金正日及び金正恩朝鮮人民軍建設における貢献、②朝鮮人民軍の特性・現状、③朝鮮人民軍が今後取り組むべき課題、から構成される。

 まず、①のうち、金正恩の貢献については、「人民軍隊を政治思想強軍、道徳強軍、軍事技術強軍として準備させるための戦略的路線を提示され、訓練熱風を強く起こし、極悪な環境の中でも託された戦闘任務を完璧に遂行することのできる実戦型の軍隊として育てられたこと」をあげている。

 次に②については、ア「首領の思想と偉業を先頭で忠実に奉じていく前衛隊伍」、イ「国家と人民の尊厳と安全、革命の争取物を固く守っていく平和守護のたくましい柱」、ウ「社会主義建設の戦区において誇らしい偉勲を立てて行く人民の幸福の創造者、文明の開拓者」という3つの側面をあげている。

 このうち、アは、軍の政治的忠実性を述べたものといえる。また、イは、軍本来の軍事面での貢献を述べたものといえ、具体的には、「今、我々の革命武力は高度の警戒状態を堅持して、祖国の空と土地、海を頼もしく守っている。我々の国防科学戦士たちも強い闘争を展開し頼もしい戦争抑止力を保持した、その気勢、その姿勢で国の防衛力をしっかりと固めるための闘争に一層拍車を加えている」ことなどをあげている。

 一方、ウは、経済建設面での貢献を指すものであり、例えば「党創建75周年を盛大に記念する・・・一念を抱いて、大建設戦闘場で献身の汗を惜しみなく捧げている」ことなどがあげられている。

 最後に③については、ア金日成金正日の「軍建設業績を擁護固守し、万代に永く輝かしていくこと、イ「最高司令官同志(金正恩)の思想と領導を忠誠で奉じ、人民軍隊の最精鋭化を実現」すること ウ「社会主義建設の活路を開くための今日の正面突破戦において不可能を知らない革命強軍の威力を高く轟かす」こと、の3点をあげている。これ分野的には、概ね②のア、イ、ウに相当すると言えよう。

 イについての具体的内容としては、ⅰ「政治思想強軍化、道徳強軍化を二本柱」とした思想事業、ⅱ「訓練熱風を強く起こし・・一騎当千の戦闘隊伍」を作ること、ⅲ「全軍に剣のような軍紀を立て、正規化的面貌を一層徹底して備える」ことがあげられている。

 ウについては、特に「三池渕市整備3段階工事と元山カルマ海岸観光地区建設、順天リン肥料工場建設をはじめとした大建設場において千年責任、万年保証の時代的見本を創造」することがあげられている。

 社説は、最後に、全人民が以上のような軍の在り方、仕事ぶりを模範として、「12月全員会議において提示された課題を無条件に徹底して貫徹」すること、そして「すべての部門、すべての単位において、過去の惰性から大胆に脱皮し、事業を献身的に気迫を持って行っていく」ことを訴えている。

 以上のような社説の内容からは、北朝鮮指導部が軍の在り方及び活動に関し、主に何を期待しているのかを改めてうかがうことができよう。

 まず、軍の在り方として、何よりも重視しているのは、金正恩に対する政治的忠実性であり、あわせて軍紀の確立といえよう。それを端的に示すのが「政治強軍、道徳強軍」との表現である。ちなみに、この文脈で語られる「正規化的面貌」とは、烏合の衆のような匪賊・山賊的な武装集団ではなく、軍服・軍帽をしっかりと着用した、規律正しい近代国家の正規軍らしい様相という意味である。その上で、実戦的な訓練を通じた戦闘力の維持を期待しているのである。更に言えば、「戦争抑止力」については、軍自体よりも、むしろ「国防科学戦士」の貢献、すなわち先端兵器の開発に帰されているともいえる。

 また、軍の実際の活動として期待しているのは、やはり、経済建設への貢献であり、当面は、党創建75周年に向けて建設・整備が進められている三池渕市整備3段階工事、元山カルマ海岸観光地区建設、順天リン肥料工場建設などへの参加であろう。しかも、単なる労働力の提供以上の高い水準の技術的責任を負わされている。併せて、指導部は、そのような軍の命令絶対貫徹の姿勢が人民の範となることを期待している。

 総じて、軍の本来的任務であるべき対外抑止力の発揮は、最優先に位置付けられているとは到底言えず、むしろ、後回しの印象さえ禁じ得ない。実は、そのような軍に対する位置づけ・期待は、従前と変わらないものといえる。ここで改めて、標記社説を通じてそれを検討したのは、「正面突破戦」の提起によっても、それに変化がないことを確認するためであった。北朝鮮指導部としては、当面、軍が現実にその戦闘力を発揮するような局面は想定していないと考えることができよう。