rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

3月17日 記事「生活条件保障に優先的な関心を」

 

 標記記事は、「主打撃前方である農業戦線に対する党的指導をより深化させよう」とのサブタイトルの下、最近盛んに主張されている、幹部が人民の要求に答えるということについて、「載翎郡三池江里党委員会(地名は音訳)において」の実例を紹介するものである。

 記事によると、同党委員会が所在する協同農場においては、今年度の増産のため「発酵堆肥を町歩当たり10トン以上出すことを計画し・・・大部分の稲わらを発酵堆肥生産にまわすこととした」。ところが、その計画を伝達する過程で、その結果として、従前、稲わらを暖房燃料として利用していた農場員の生活に多大な支障をきたすことが判明した。

 そこで、党委員会では、まずその燃料問題の解決に優先的に取り組むこととし、結果、「(農場)管理委員長をはじめとした農場幹部たちの献身的な努力によって数百トンの石炭が準備され」、それを農場員に供給することにより、稲わらを円滑に堆肥の材料に充てることができるようになた。また、石炭を暖房燃料とすることによって、住民の生活も稲わらを用いていた従前よりも改善したというのである。

 記事がここで強調したい点は、同党委員会が、住民生活上の問題点(この場合は暖房燃料の不足)が浮上した時点で、増産という目的のためにそれを抑圧するのではなく、その問題を当面の課題として対応したということであろう。結果、農場員からの不満発生を防ぎつつ、本来の課題(堆肥増産)も実現の方向に進めることができた、ということが評価され、推奨されているのである。

 当然と言えば当然の方法であるかもしれないが、おそらく従前は、権柄づくで上部の決定(稲わら供出)を上意下達的に押し付け、この場合であれば、燃料確保などは、農場員の自助努力に任されるというのが普通であったのではないだろうか。そういったやり方を改めようというのが、最近の「官僚主義」批判キャンペーンの趣旨であろう。

 なお、そういった記事の趣旨とは離れるが、個人的に注目するのは、幹部等が「献身的な努力」で石炭を準備したという部分で、これは具体的に何を意味するのであろうか。推測するに、あちこちと伝手を頼って石炭鉱山などに直接接触し、農場が保有する食糧などと交換で石炭を入手したのではないだろうか。そうであるとすれば、これはまさに「地下経済」的手法である。そういう方法を党機関紙が模範事例として紹介するというのは、大いなる矛盾と言わざるを得ないであろう。