rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

3月22日 金与正が、トランプ大統領金正恩あて親書送付について談話発表

 

 朝鮮中央通信は、「米国大統領が送ってきた親書は朝米両首脳部の間の特別な個人的な親密な関係をよく示してくれた」と題し、金与正が党中央委第一副部長の肩書で3月22日発表した談話を公表した。

 同談話は、トランプ大統領金正恩あて親書を受け取ったことを明らかにした上で(到達日時には言及無し)、同親書の内容について、「朝米2か国の関係を推進するための自身の構想を説明し、伝染病事態の深刻な脅威から自分の人民を保護するため力を尽くしている(金正恩)国務委員長同志の努力に対する感動を披瀝しつつ、ウイルス防疫部門において協力する意向も表示した」ほか、「今後、国務委員長と緊密に連携していくことを望むとの意思を伝えてきた」ものであったとしている。

 そして、そのような親書送付に対して、自身が「高く評価されるべきと考える」「衷心から謝意を表する」と歓迎の意向を示すのみならず、金正恩も「大統領の温かい親書に謝意を表示された」ことを明らかにしている。

 ただし、談話は、両国関係の発展については、そのような首脳間の個人的な関係だけで評価したり期待したりはできないと一線を画す姿勢を示し、特に「公正性と均衡が保障されず一方的で欲張りすぎの考えを引っ込めなければ、二国間の関係は引き続き悪化一路へと突き進むことになる」として、米国の北朝鮮に対する要求を牽制している。

 そして、「個人的な考え」とした上で、「両首脳の間の親書ではなく、両国の間に力学的ないし道徳的に平衡が維持され公正性が保障されてこそ、両国関係とそのための対話についても考えてみることができるであろう」として、米朝間の対話再開には一定の前提が必要であるとの考えを示している。

 加えて、両国関係改善について、「希望はするが、それが可能かは時間に任せて見守らなければならないであろう」と述べると同時に、「我々はその時間を無駄に失ったり浪費したりせず・・・自ら変り、自ら強くなるであろう」として、時間は自分たちに有利に働いているとの認識を示した。これは、まさに、最近示されつつあるミサイル兵器の開発進展などを念頭に置いた表現といえよう。

 要するに、親書を送ってくれるのは嬉しいが、それだけでは対話再開には不充分であり、それまでの間は独自に国力の強化を進めます、それを避けたければ、一日も早く「公正な立場」で我々に臨みなさい、ということが言いたいのであろう。こういった主張は、「正面突破戦」で国力を増強して「敵どもの制裁策動を粉砕する」という、このところの北朝鮮の基本路線の反映といえ、至極当然の内容といえる。

 しかし、それが金与正の名義で出された理由については、一考の価値があろう。政策的な次元からすると、談話が強調しているように、今回の親書は個人的なものであり、国家間のやりとりとは一線を画すという論理を徹底するために、あえて外務省などは登場させず、金正恩の個人的な代理人といった性格を示すために彼女の名義を用いたと説明することもできよう。ただ、それにしても、最近、彼女の存在感が徐々に高まりつつあるようにも思われる。先般の対韓批判の談話発表がその端的な例であるし、組織指導部長の解任も、昨年末に同部第一副部長に就任したとみられる彼女の地位・役割を相対的に引き上げる結果を招いているのではないだろうか。

 そう考え出すと、先般の金慶喜の久々の出現との関係も気になる。当時、「金正日:金慶喜」にならって「金正恩:金与正」という構図を作り出すためとの解説が韓国などでとりざたされ、本ブログではそれに否定的な見方を示した。今でも、そういった図式的な解釈には賛同しがたいが、それとは別に、金与正と金慶喜との個人的な関係が背景にあった可能性は排除できないと思う。金正日存命中、若くして母を失った与正と娘を失った慶喜という姪・叔母の両人が親密な関係であったと仮定すれば(その可能性は高いと思う。当時は、慶喜は、金正恩の補佐役・後見人と位置付けられていた)、与正の影響力拡大を反映して、慶喜の「復活」がなされたという仮説もありえよう。彼女が組織指導部第一副部長という地位につけば、そういった問題を金正恩と隔意なく相談し、処理することができるのではないだろうか。すべて憶測に過ぎないが、いずれにせよ、今後の金与正の地位・動向が注目されるところである。