rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

5月12日 金才竜の「現地了解」再々論

 

 一昨日来の金才竜の「現地了解」に関する分析を補う意味で、「現地了解」が報じられる他の二人の幹部、すなわち、崔竜海、朴奉柱について、どのような指導内容が報じられているのかを簡単に振り返ってみた。

 まず、崔竜海については、金才竜の総理就任(昨年4月)以降の「現地了解」活動は5回しか報じられておらず、いずれにおいても、いわゆる「市場経済的要素」に関する言及は含まれていない。なお、同人については、その経歴からしても、また、最高人民会議常任委員長という役職からしても、主に期待されるのは対外儀礼面での活動などであって、経済面での指導的役割はほとんど期待されていないのであろう。

 次に、朴奉柱については、同じく昨年4月の副委員長就任(すなわち総理辞任)以降の「現地了解」報道は、昨年中に17回(うち9月までが11回、10月以降6回)、本年に入ってからは4回(平壌総合病院建設場視察は除く)の計21回である。

このうち、昨年10月以降の10回について指導内容を確認したところ、次の3回において、「経営戦略」などの語が含まれていた(日付は記事掲載日)。

・2019年11月21日:金正淑平壌紡績工場視察時の「協議会では、経営戦略、企業戦略を正しく立て、工場を技術集約型、労力節約型に転換させ・・」ることなどを協議。

・同年12月28日:12.28:祥原セメント連合企業所視察時に「生産増大のための経営戦略、企業戦略を正しく立て、生産能力を拡張」することなどを指示。

・2020年5月12日;「咸鏡南道内諸部門」(興南肥料連合企業所、2・8ビナロン連合企業所、龍城機械連合企業所など)視察時の各地協議会において、「すべての単位において・・・自らの実情に合うよう経営管理を行い現存生産能力を最大限発揮」することなどについて協議。

 これを昨日記載の金才竜の「市場経済的要素」に関する言及振りと比較すると、頻度・程度の両面ともにやや低いとも言えるかが、有意の差があるかというと微妙であろう。ただ、少なくとも金才竜が朴奉柱よりも「市場経済的要素」に消極的ではないことは明白であり、昨年の交代がそれを弱めるため、すなわち経済の統制的側面を強めるためのものではなかったと結論付けることは許されよう。

なお、朴奉柱の「現地了解」報道回数は、昨年11月以降顕著に減少しており、年末には車椅子に乗った姿も報じられていることから推測するに、同人の総理辞任の背景には、80歳を超えた同人の健康問題への配慮ないし懸念が存在したのではないだろうか。

 ちなみに上述3人の「現地了解」報道で言及される内容をみると、共通して、増産、質の確保・向上、設備のフル稼働、科学技術活用、資材・燃料の確保、勤労者の生活配慮などが頻繁に取り上げられている。換言すると、これらが北朝鮮の生産・建設現場における共通の課題であるということであろう。