rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

5月20日 論説「国産化に真の愛国がある」

 

 標記論説は、「党創建75周年を高い政治的熱意と誇らしい労力的成果で輝かそう」との副題を付したもので、冒頭に金正恩の「我々のものを大切にし、輝かしていく、ここに朝鮮民族第一主義があり、我が祖国の尊厳を轟かせ、富強繁栄を促進する真の愛国があります」との言葉を引用した上で、「国産化」の意義を次の3つの側面から論じている。

 第一は、「国産化を実現することは国と民族の尊厳と直結する重大な政治的事業」ということである。これは、物質的・経済的に他国に依存していては自主性を発揮できないという発想に基づくものでいわば当然の主張といえるが、注目されるのは、そのような「国産化」が困難な課題であることを認め、「愛国で燃える熱い心情無くして選択することができず、非常な覚悟と意志がなくてはやりとげられないのがまさに国産化の道である」として、「愛国(心)」をその実現の担保として掲げていることである。

 第二は、「我が人民の胸ごとに民族的矜持と自負心、熱烈な愛国心を植え付けるための重要な事業」ということである。具体的には、「社会主義制度に対する愛着は、日常生活で広く利用するすべてのものと一つにつながっている・・・幼い時から我々のものを食べ、着て、使い成長する過程で愛国の感情が昇華され、有り難い制度のための一身を躊躇なく捧げようとの自己犠牲精神、献身性も生まれることになる」からである。つまりは、日常生活に必要なものを国産化しなくてはならないということである。

 第三は、「自立、自力で社会主義強国建設を促進していくための必須的要求」ということである。「いかなる外的要因にもかかわりなく人民経済の持続的、全面的発展を成し遂げ、社会主義強国建設の目標を成果裡に達成していくことができる」ようになるためには、「国産化」すなわち「自力更生」の実現が必須であるからである。

 論説は、以上の項目を挙げた上で、先の順川リン肥料工場の完工を「我が党の自力富強、自力繁栄思想の偉大な勝利」と主張し、全国民がそれに続くことを訴えて結びとしている。

 結局のところ、同論説で、「国産化」というのは、「自力更生」とほぼ同義に用いられているようにみえるし、「国」と「民族」、「社会主義制度」も、互換的に用いられているようにみえる。

 また、「国産化」は、第一では、「愛国心」の発揮を裏付けして実現されるものと説明される一方、第二では、「愛国心」を涵養するための手段・方法として説明されている。また、第三では、「社会主義強国」建設を着実に実現するための担保とされるが、では、「社会主義強国」とは何かと言えば、他国に依存しない「自主・自立」の国、すなわち「国産化」が実現された国ということになり、トートロジーな主張のようにも聞こえる。

 要するに、「国産化」(=自力更生実現)と「愛国」(=民族的自尊心、社会主義制度への愛着)は、互いに因となり果となる、一体的な関係にあるものと位置付けらている。ここから推測するに、現在の北朝鮮の路線において、「自力更生」は既に「制裁」対応的な戦術的方策の域を超え、それ自体が自己目的化していると考えられる。そのような理解が正しいとするなら、韓国あるいは米国が盛んに呼びかけるような外部経済との緊密な統合によって、北朝鮮に繁栄をもたらすという提案自体、果たして受容可能なものなのか、いわんや核放棄の見返りとしての魅力ある代償たり得るのか、大いなる疑問を呈さざるをえないのである。