rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

5月31日 評論「農村に対する国家的支援の強化」

 

 本評論は、「すべての力量を総動員、総集中し田植えを適期に質的に終えよう」との共通タイトルの下、掲載されたものである。

 まず、標題の意味を「国家が農村を物質技術的に、労力的に、財政的に積極的に助けることを意味する」と説明し、それが農業振興、食糧増産に必要不可欠な施策であると主張する。その上で、特に以下の事項の重要性を強調する。

 第一に、「なによりも、国家的に農業部門に対する投資を増やし、物質的保障事業を改善すること」である。そして、「ここで切実に提起される問題は、農作業に必要な肥料と農薬を適期に保障すること」であるとする。あわせて、「農作業に必要な水と電気をたっぷりと保障」「農作業に必要な資材を営農工程に先立ちたっぷりと保障」することをあげている。

 第二に、「農村を労力的に積極的に支援すること」をあげる。「特に田植え時期には、全国が奮い立って農村を労力的に積極支援する」ことが必要としている。

 以上が評論の概要であるが、冒頭で掲げた「国家的支援」についての定義に比すると、その具体事例として掲げられた内容は、やや不十分な印象を拭えない。というのは、農繁期の労力支援はともかく、肥料、農薬、電気、資材などの円滑な供給が直ちに真の意味で「支援」と言えるのか疑問だからである。確かに、それら物資の供給不足が農業振興の隘路になっており、その解決が食糧増産の鍵であるのは間違いないかもしれない。しかし、それら物資の増産をもって、「国家の農村支援」と言えるのだろうか。

 実際は、それらの物資の農村への供給に際しての価格(厳密に言えば、農村からの食糧の買い上げ価格との相対関係)が問題なのではないだろうか。その生産コストに比して低廉な価格で供給しているのであれば、「支援」といえるであろうが、そうなっているのか、むしろ、それら物資を生産する国営企業所が利益を上げているのであれば、極端に言えば、農業部門からの収奪になるのではないだろうか。

 そのような意味で「支援」となり得るのは、「農業用水」の提供のための灌漑施設、用水路の建設・整備を国家負担で行うことであろう。この点は、このところ相当の取り組みがうかがわれる(同日付けで、朴奉柱党副委員長が平安南道の灌漑水路建設場などを現地了解したとの記事も掲載されている)。ただ、この点についても、厳密に言うと、その水の料金はどうなっているのかという疑問は残る。

 実際のところ、北朝鮮の農村は、全体として見た場合、国家から「支援」されているのか、あるいは逆に「収奪」されているのか、大いに関心がもたれる。昔、経済の専門家から、工業部門発展の原資を得るため農業部門は収奪されている(その手段が工業部門の製品と農産品の価格差)との説明を聞いた記憶があるが、そのような見方は現在も妥当するのであろうか。それに関し、最近の実情を踏まえた実証的な分析はなされているのだろうか。韓国の研究者には、希望的・理念的な空論でなく、そういった地道な努力を期待したい。