rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

2022年1月5日 党中央委第8期第4回全員会議コメント(その3)

 

 標記会議のうち、金正恩の農村問題に関する報告(「我々式社会主義農村発展の偉大な新時代を開いていこう」)について紹介したい。

 同報告は、1日の本ブログで紹介したとおり、基本的な目標として、①農業勤労者の思想意識水準の向上、②農業生産力の飛躍的発展、③農村生活環境の根本的改変を掲げたものであった。そのうち、①については、「農業勤労者の思想を改造し、政治意識を高めることに優先的な力を注ぎ・・党の社会主義農村建設構想を忠実に奉じる農村革命家として準備させることが何よりも重要」などとして、その重要性を強調した。また、②については、「国の食糧問題を完全に解決する」ことを「基本課題」としつつ、「今後10年間に段階的に占領すべき穀物生産目標と畜産物、果物、野菜、工芸作物、蚕業生産目標」を示し、③についても、「具体的な課題と方途を闡明」したとされる。

 そして、こうした構想実現の方策については、農村における「3大革命」推進という枠組みを示し、具体策を論じている。まず「思想革命」として、農業勤労者に各種思想教育を施すことによって、「党と国家、制度の偉大性と有難さを体得させ、集団主義が思想意識と生活を支配するようにするとともに労働に誠実で高い階級意識を持つ」ようにすることを求めている。「技術革命」に関しては、農業勤労者の科学技術水準の向上に努めるともに、「農村に大学卒業生を多く配置」することなども求めている。「文化革命」については、農業勤労者の文化意識水準向上などと共に、農村への教育、医療サービス水準の向上などにも言及し、「首都の文化、労働階級の文化、時代の模範文顔を地方と農村に絶え間なく伝播、拡大」することを求めている。

 また、農業生産の発展に関しては、冒頭で「穀物生産構造を変え、稲と小麦を強く推進する」ことによって、「人民の食生活を白米と小麦食物中心に変える」ことを訴えている。この趣旨がよく分からないのだが、従前は、「白米」を食べさせることを目標としていたので、それと並列する柱として「小麦食物」すなわちパンとか麺類を推奨するということであろうか。それに続けて、野菜栽培、畜産などにも相当言及していることからすると、絶対的食糧不足の解消というよりは、食生活の多様化を志向しているとの印象を受ける。

 農業に対する指導・管理については、「統一的で計画的で科学技術的なしどうを強化し、郡協同農場経営委員会を中心とした我々式農業指導体系の融雪性を発揚」することなどを求めている一方、「甫田責任管理制」はもとより「分組管理制」などにも言及がない。ここでも、やはり集権的・集団主義的体制への復帰傾向がうかがえる。

 そうした傾向と符合する形で注目されるのが「農業部門に対する国家的投資を目的志向性をもって増大させる」との方針である。具体的には、農村の「水利化、機械化、化学化、電気化」に関して「根本的な解決方途が具体的に言及」されたとされるほか、「国の農機械工業を完全に一新させる・・ための特別重大措置を取った」ことや「協同農場が国家から貸し付けを受けて償還できない資金をすべて免除することについての特別措置を宣布」したこと、「すべての市、郡に農村建設に必要なセメントを優先的に前進供給する」「(農村住宅建設用の)主要資材と仕上げ建材を国家的に保障し、地方にも建材建設基地を整備すること」「農村建設を党的、国家的に指揮する強力な指導体系を樹立する」などの課題が示されたと報じられている。かなりの大盤振る舞いといえるであろう。

 以上のような「報告」は、このところの「全面発展」方針を農村を舞台に具現したものと言えるが、同時に、報道でも言及しているとおり、「偉大な社会主義農村テーゼの深化発展」を目指したものでもある。これは、金日成が1964年2月、「わが国における社会主義農村問題に関するテーゼ」と題して行った著述であり、そこで農村のかくかくの方途として示された内容が後に「3大革命路線」として社会全般に敷衍する形で定式化された経緯がある。そうしたことを考えると、今日、金正恩が改めて「3大革命」推進を提唱する中で、今次会議でこの報告を行ったことはなかなか意味深長であるようにも思われる。ちなみに、金正恩は、執権から間もない2014年、同テーゼの発表50周年に際して、「社会主義農村テーゼの旗印を高く掲げて農業生産で革新を起こそう」と題する書簡を発表している。