rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

7月4日 崔善姫外務部第一次官談話発表(7月5日記。6日加筆)

 

 朝鮮中央通信は、4日、標記談話(同日付け)の発表を伝えた。ただし、「労働新聞」は、5日付けでもこれを伝えていない。

 

 同談話は、「『朝米首脳会談』という言葉が、数日前から話題に上がって国際社会の耳目を集中させている」ことやそれに「仲裁の意思を表明する人(韓国文大統領を示唆)」「必要性について米執権層が共感しているという声」などの動きをとりあげて、それらを「朝米関係の現実態を無視した」ものときめつけた上で、北朝鮮の立場を示すものといえる。

 そこで主張されているのは、「すでに遂げられた首脳会談の合意も眼中になく、対朝鮮敵視政策にしつこく執着し」、「われわれと枠組みを新しくつくる勇断を下す意志もない」「朝米対話を自分らの政治的危機を処理するための道具としか見なさない」ような米国とは、「対座する必要がない」ということである。

 同論説の趣旨について、巷間伝えられてるような、米国大統領選挙前における米朝首脳会談に応じる意向のないことを示したものと解釈するのは早計であろう。

 むしろ、北朝鮮としても、冒頭に指摘しているような「米朝首脳会談」をめぐる各国の動向に強い関心を抱いており、米国が上述のような姿勢を改めてくれるなら、それに応じる準備があるということを間接的に主張するものと考える。すなわち、仮に米国が「すでに遂げられた首脳会談の合意」であるシンガポール宣言に基づく、米朝の関係正常化に向けた「枠組みを新しくつくる」ための交渉を呼びかけるなら、北朝鮮としてそれを拒絶する理由はないということである。

 そもそも、同談話が対米交渉の実務責任者と目される崔善姫の名義で、しかも、そのカウンターパートであるビーガン副長官の訪韓を目前に出されたこと自体が、米朝交渉への積極姿勢をにじませたものといえるのではないだろうか。

 同談話が対外的なメディアである朝鮮中央通信で伝えられる一方、「労働新聞」に掲載されないことも、それが基本的な姿勢を表明する宣言的なものではなく、牽制・交渉的な性格を帯びたものであることを示しているといえよう。

 ただ、留意すべきは、現状について「いささかの誤った判断や踏み損ないも致命的で取り返しのつかない結果を招くことになる現在のような鋭敏な時」との認識を示すとともに、「米国の長期的な脅威を管理するためのより具体的な戦略的計算表を練っている」との表現である。

 北朝鮮が今後、単純に前述のような米国の姿勢変化を待ち、それがなければ首脳会談に応じないとの対応(それであれば、米国としてもさほど困ることもないであろう)にとどまるのではなく、むしろ、積極的に米国の姿勢変化を引き出すことを狙いとして、それなりにインパクトのある圧迫策を講じる可能性についても念頭に置いておく必要があると考える。