rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

11月6日 トランプ政権下米朝交渉は何故結実できなかったのか

 

 米国大統領選挙の結果は、正式には確定していないが、事実上、バイデン勝利に終わりそうである。そこで、トランプ政権が進めた北朝鮮との非核化交渉は何故結実できなかったのか、バイデン新政権はそこから何を学ぶのかを検討してみたい。

 それについての一つの考え方は、そもそも北朝鮮に非核化の意思はなく、トランプは、北朝鮮の詐欺行為にだまされただけであった、というものである。この考え方(以下「A説」とする)に基づけば、トランプが首脳会談に応じたこと自体、慎重な配慮を欠いた(あるいは政治的アピールだけを狙った)不適切な行為であったということになる。

 この考え方は、北朝鮮の「詐欺行為」の狙いが何であったのかによって、更に細分化することもできよう。一つは、「時間稼ぎ」というもので、トランプ政権発足直後の軍事力行使も辞さないような強硬姿勢に恐れを抱き、その矛先をかわして、任期満了を待つというものである。もう一つは、「非核化」の姿勢だけ示して、米国との関係正常化など何らかの成果を得ようとしたとみる考え方である。また、「ダメ元」で後者を狙いつつ、前者でも可としていたという考え方もできるかもしれない。米朝交渉の経緯に即して言えば、そもそもシンガポール会談が失敗のはじまりであり、ハノイ会談が物別れに終わったのは、更なる被害(北朝鮮への意味のない給付)拡大を食い止めたという意味で、評価されるべき結果ということになろう。

 A説から得られる教訓は、北朝鮮との安易な交渉いわんや「恩恵」の付与は避けるべきであり、「圧力堅持」を基調としつつ、北朝鮮側に「非核化」に向けての真摯な姿勢がうかがえる場合に限って、慎重に(つまり実務レベルからの積み上げ方式で)交渉を進めるべきということになろう。このような考え方を具体的な政策として考えると、オバマ政権時代の「戦略的忍耐」政策と軌を一にするものになるのかもしれない。

 前述のような考え方とは前提を異にするもう一つの考え方は、米朝交渉開始の時点では、「非核化」の機会の窓は開かれていたが、双方の交渉が尽くされなかったために、結局、その機会を活かすことができずに今日に至ってしまったというものである(以下「B説」)。交渉が尽くされなかった原因としては、相互の信頼関係ないし双方の交渉に向けた誠意・努力あるいは知恵などの不足をあげることができよう。この考え方に基づけば、シンガポールでの米朝共同宣言は、肯定的な意味を持つ一方、ハノイ会談が物別れに終わったことは、「非核化」に至る道を閉ざすことにつながる残念な結果であったということになる。

 B説から得られる教訓は、何よりも、相互の信頼関係の毀損を防ぎ、その醸成を図りつつ、賢明な交渉戦略を構築する(あるいは、それを推進しうる力量を備えた陣容を整備する)ことが重要ということになろう。仮に、バイデン新政権がこのような考え方に立つなら、これまでの米朝交渉結果の全面否定ではなく、そこで得られた基礎の上に立って、新たな交渉を再出発させる道を選ぶことになろう。

 果たして、バイデン新政権がどちらの道を選択することになるのか、現時点での判断は早計と言わざるを得ないが、バイデンのこれまでのトランプ政権の対北朝鮮政策に対する批判言辞や同陣営の顔ぶれがオバマ政権と重複していることなどを勘案すると、バイデン政権発足後の対北朝鮮政策は、当面、「A説」に強く影響されたものになる可能性が高いと考えられる。政権交代時にみられがちな前政権の政策に対する過度に否定的な姿勢及び民主党がかねて持っている「人権問題」重視の姿勢なども、そのような傾向を加速するのではないだろうか。

 ただ、そのような政策は、北朝鮮が「圧力」に屈しない限り、その核戦力整備を黙認・放置するのと大差ないとの弱点をはらんでいる。そして、北朝鮮の核戦力は、今日、オバマ政権時代よりもはるかに強化されており、米国本土に直接的脅威を与えかねない状況が目前に迫っている。そのような点からすると、バイデン政権にオバマ政権のような「悠長な対応」が許されるのかは疑問といわざるをえない。バイデン政権発足後、いずれかの時点でそのような問題が顕著化した場合には、B説が浮上する可能性もあると考えられる。