rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

10月19日 朝鮮人民軍地上軍の編成について

 

 党創建75周年に際しての閲兵式参加部隊に関する報道(10月12日付け本ブログ参照)を基にして標記について検討してみた。

 まず、「軍団」級の部隊に関しては、部隊名が明示された部隊は、第1~第12軍団(ただし、6,11を除く)及び首都防御軍団であった。なお、前掲本ブログでは「第5軍団」が2回紹介されたと記したが、聯合通信の記事などによると、後に登場したのは「第9軍団」であったようである。また、「第6軍団」は、かつての「第6軍団事件」(反乱謀議発覚?により解散)のためか、「欠番」になっているとされる。第11軍団は、かつての特殊軍団(通称「暴風軍団」)であり、今次閲兵式においては、特殊作戦軍(司令官・上将、陸上・海上・航空の各狙撃兵及び軽歩兵縦隊)として登場している。

 したがって、いわゆる正規軍団は、10個と考えられる。このうち、パレード前段に登場した1,2,4,5の4個軍団が軍事分界線沿いに位置する、いわゆる前方軍団であり、後段に登場した3,7,8、9,10、12の6個軍団がいわゆる後方軍団と考えられる。前者の軍団長がいずれも上将であったのに対し、後者の軍団長は、南浦など平壌外郭に位置する第3軍団長が上将であったのを除き、いずれも中将であったのも、そのような重要度の違いを反映したものであろう。

 なお、これら正規軍団の配置は、閲兵式報道におけるナレーションやその他の資料などを勘案すると、前方軍団は東から西に向けて4,2,5,1の順で、また、後方軍団は、西海側に3,8軍団が、東海岸日本海)側に10.7,9軍団が、中朝国境内陸部に12軍団が、それぞれ所在していると推測できる(まったくの私見であるが)。

 また、首都防御軍団は、以前の平壌防御司令部とその傘下部隊を軍団の形に改組したものであろう。軍団長が中将であるのは、やや意外であるが、平壌防衛のための精強部隊は、護衛司令部(司令官・上将)の傘下に置かれていて、同軍団傘下の兵力はさほど多くないためであるとも考えられる。

 閲兵式では、これら各軍団の縦隊に続いて、「山岳歩兵縦隊」(指揮官・少将)と称する独特の迷彩服を着用した部隊及び「タンク装甲師団縦隊」(指揮官・大佐)と称する戦車兵用帽子を被った部隊が登場した。いずれも、部隊名称を冠していないことから、特定の部隊ではなく、兵科を代表した縦隊とも考えられるが、判然としない。特に、前者については、特定の師団であれば師団長(少将又は中将)が登場すべきところ、大佐が率いているのは不自然である。

 その後に近衛ソウル柳京洙第105タンク師団及び4個の機械化歩兵師団(師団長は、いずれも中将)の縦隊が登場した。これら師団が独立の縦隊を編成して閲兵式に参加したということは、これら五つの師団は、前述の正規軍団の傘下ではなく、中央の直轄下におかれていることを示すと考えられる。師団長が後方軍団の軍団長と同じ中将であることも、これら師団の重要度を物語っているといえよう。

 閲兵式には、以上の外、偵察兵縦隊及び各種専門兵縦隊などが登場した。このうち、偵察兵縦隊(指揮官・大将)は、偵察総局の直轄部隊によって編成されたものであろう。また、各種専門兵縦隊は、化学、工兵などの兵科部隊によって、それぞれ編成されたものであろう。

 以上が閲兵式の報道において紹介された実戦部隊の概要であるが、ここで疑問を感じるのは、韓国国防部の「国防白書」に掲載の朝鮮人民軍機構図などに登場する2個の「機械化軍団」の姿が見えないことである。しいて言えば、前述の「タンク装甲師団縦隊」がそれを代表しているとも考えられないことはないが、他の軍団及び直轄師団が各軍団長・師団長を先頭に個別の縦隊を編成しているのに、これら軍団だけがそのような形で参加するというのは、不自然としかいいようがない。また、これら軍団は、前掲の徒歩部隊に続いて行われた戦車、装甲車などの機動部隊の行進を担当したとも言えるが、各種ミサイルを保有する戦略軍が司令官(上将)を先頭にした縦隊を編成して徒歩行進に参加した上で機動部隊の行進の中で各種ミサイル車両を登場させていることを勘案すると、やはり納得しがたいところがある。

 結局のところ、2個の「機械化軍団」については、その実在性に疑問を呈さざるを得ない。これら「機械化軍団」は、かつては存在したが、長年の改編の中で、前述の直轄師団などに分解され、事実上存在しなくなった(残されているのは、せいぜい大佐を長とする小規模部隊)にもかかわらず、その解散・消滅が確認できないまま機構図上に残された「幻の軍団」なのではないだろうか。

 以上は、今次閲兵式報道に基づく極めて独断的かつ暫定的な仮説である。諸氏のご批判を乞いたい。