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主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

2021年1月30日 党政治局メンバーの「世代」別構成について

 

 1月25日付けの本ブログで今次党大会を機に構成された党政治局メンバーの所属部門を検討したが、ここでは、それら人物の金正恩との関係を基準とした「世代」について検討したい。そのような基準を設ける理由は、それらの人物が金正恩によって抜擢されたのかあるいは金正日時代に既に幹部の地位にあったのかによって、金正恩に対する姿勢に自ずと影響が生じると考えられるからであり、換言すると、金正恩の「子飼い」の幹部が指導部のどの程度の比率を占めているかを把握することは、同人の指導権を評価する上で重要な意義があると考えるからである。

 今次大会を機に朴奉註らが引退したことにより、現在の政治局メンバーの中には、金正恩が2010年9月の党第3回代表者会で中央委員に選出され公式デビューする以前から既に政治局メンバーないしそれに準じるような地位に就いていた人物は姿を消した。政治局メンバーとしての経歴を基準にすると、現存する最長老幹部は、同代表者会で政治局入りした、現在ナンバー2の崔竜海となる。そこで、同人と同等の経歴を有する人物をAグループ、次に同代表者会で中央委員会メンバーに選出された(あるいは当時それに匹敵する地位にあった)人物をBグループ、それ以降ないし2016年5月の党第7回大会において中央委員会メンバーに選出された人物をCグループ、同党大会の後、今日までに中央委員会メンバーに選出された人物をDグループとして分類する。

 それぞれのグループの「世代」的特性を類型的に言えば、Aグループは、金正日によって抜擢され金正恩時代を共に歩み生き抜いてきた人物、Bグループは、金正日によって準備され金正恩によって抜擢された人物、Cグループは、(おそらく)金正日時代に育ち金正恩によって抜擢された人物、Dグループは、金正恩時代に育ちかつ抜擢された人物ということになる。B、C、Dグループは、いずれも金正恩によって最高指導部に抜擢された点では共通するが、その抜擢の候補者になる過程を見ると、Bグループは金正日の関与が強く、Cグループはそれが希薄、Dグループは皆無とみなすことができよう。

 金正恩を除く政治局メンバー29人を、その経歴(聯合通信ホームページの人物データベースに基づく)を基に(やや恣意的なところもあるが)、以上の考え方で分類すると、Aグループは2人、Bグループは9人、Cグループは10人、Dグループは7人、不明1人(註)となる。ちなみに、Aグループには崔竜海のほか、1999年に電子工業相の経歴があり1944年生まれの오수용(15位、第2経済委員会委員長。2014年政治局入り)を含めた。

 

 註:24位の김형식(党中央委法務部長)は、データベースでは、「1941年」生まれで2000年代に石炭工業相など同部門の要職を歴任したことになっているが、そうであれば、現在79歳となる。しかし、今次公表された顔写真は、それほどの高齢には見えず、また、出身部門と現職との乖離もあるので、同名異人の履歴が混合している可能性があることから経歴不明とした。推測では、Dグループに属する人物と考える。

 

 結局のところ、政治局メンバーの大半が金正恩に抜擢された人物であり、多少なりとも金正日の息のかかったといえる人物(A、Bグループ)が全体の3分の1程度存在し、残り(C、Dグループ)は、「金正恩の子飼い」と言えよう。

 ちなみに、基準を政治局メンバーになった時期で見ると、2016年の7回大会以前に選出されていたのは3人(Aグループ+19位리영길2015年)しかおらず、同大会での選出が3人(4位李炳哲、6位박태성、14位김영철)であり、他の23人は、同大会以降の選出である。政治局メンバーとしての経歴という面でも、大半の人物は、金正恩の半分以下の経験しか有していないことになる。2012年に党第一書記として政治局入りした金正恩は、他の政治局メンバーと比較すると、年齢を見れば若輩かもしれないが、党指導部における経験という面では、崔竜海を除くと、むしろ先輩ということになるのである。

 更に、党の最高指導部である政治局メンバーにおける「世代」が以上のような構成であるとするなら、中央委員クラスにおける「世代」構成においては、おそらくそれ以上にC、Dグループの占める比率が高くなっていると推測することが許されよう。

 以上のような検討結果は、金正恩の存在感が、党指導部内における経験という側面から見ても、圧倒的なものであることを改めて示すものといえよう。