rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

2021年4月27日 旧ソ連の経験を通じてみる北朝鮮経済(前)

 

 最近、たまたま、以前ある方からいただいた『経済体制と経済政策』(丹羽春喜)という本を読み返した。同書は、ソ連崩壊のしばらく後(平成6年=1994年)に出版されたもので、ソ連の「命令(中央集権指令)型経済体制)の問題点を指摘するとともに、それが何故、ゴルバチョフ時代に至って崩壊に至ったのか(それ以前の時期ではなく)を論じており、北朝鮮の現状を考える上でも、極めて示唆的な点が少なくないと感じた。

 そこで、同書の記述に依拠して、ソ連の経験という視点から北朝鮮経済を分析してみたい。

 まず、私なりに同書の主張を(かなり乱暴にではあるが)要約すると、次のとおりである。

ソ連が採用していた命令型経済体制は、価格メカニズムを活用する資本主義経済体制に比較して、諸経済資源の有効利用を実現するという面で、本来的に劣っている。当局の「計画機能」によって、それを実現することは事実上不可能であるからである。

②しかし、そのような命令型経済体制の持つ非効率性は、直ちに経済の混乱や行き詰まりをもたらすものではなく、非効率的ながらも、それなりのバランスを維持しつつ、体制を存続させていくことは可能である。

③また、そのような非効率性を抱えながらも、ある時代には、目覚ましい経済成長を実現でき、あるいは強力な軍事力を建設することができたのも事実であるが、その背景では、国民の消費水準を強力に抑制したり、あるいは一回しか利用できないカード(戦時賠償の獲得、未開の処女地開拓など)を切ったりといった方法を用いていた。要するに、そのような「成長」や軍備増強は、持続可能なものではなかった。

④そのような経緯を経て、ゴルバチョフ登場直前のソ連経済は、ほとんど成長力を欠いたぎりぎりの状況にあったのだが、それを更に亢進させたのは、ゴルバチョフ時代における次のような流れである。1⃣ハイテク部門などの成長を目指した大規模な投資を計画する一方、2⃣その財源確保のための方策(増税など)を怠ったため(アルコール販売を制限したため、国営商店の利益が大幅に減少したことも影響)、通貨を大量に増発せざるをえなくなり、更に、3⃣労働者の「民主化」促進などの政策により賃上げを認めざるを得なくなったことで国内に「過剰需要」(潜在的購買力)が蓄積した、そのような中で顕在化した闇市場などの問題に対して、4⃣党内保守派などは統制強化(「命令経済の徹底」を図ったが、ゴルバチョフの政治路線と適合せず、狙いを徹底できず、結局、急激なインフレが顕著化するに至り、経済・社会の混乱を招いた。

⑤そうした経済・社会的混乱を背景に、連邦を構成する各共和国の間で物資の奪い合い的な状況が生じ、それぞれが管内の地下資源や国営企業への管轄権を主張した結果、連邦政府は、財政収入を得ることができなくなり、存立の基盤を失った。

 ※以上の経験に即した北朝鮮経済の分析は、後段で行う予定。乞うご期待