rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

2021年5月23日 評論「高尚で文明な同志的礼儀道徳」

 

 標記評論は、「社会主義生活様式を徹底して確立しよう」とのサブタイトルを付して掲載されたもので、主に職場などの集団内における上下関係について、「同志的礼儀道徳」を守るべきことを訴えたものである。

 したがって、そこでは、上司の部下に対する態度と部下の上司に対する態度の双方が説かれているのだが、注目されるのは、後者に力点が置かれていることである。

 すなわち、「上の人を尊敬し礼節をもって対することは革命家が守るべき道徳である」「下の人が上の人の与えた課題に誠実勤勉な態度で対し無条件に徹底して執行することは革命規律であり、制度と秩序であると同時に上下間の(人間)関係において必ず守るべき高尚な礼儀道徳である」と主張する。

 そして、そのような上下関係が組織の活動成果を担保する前提であることについて、「いかなる部門、いかなる単位であるかを問わず、このような礼儀道徳気風が確固として樹立されてこそ該当単位の事業が活力をもって展開されうるし、党の路線と政策が徹底して貫徹されていくことができる」と説明している。

 このような主張がなされているということは、端的に言えば、現実社会の人間関係において、上司が部下に対して尊大ないし専横的にふるまうことよりも、部下が上司の命令に従わないことのほうがより一般的ないし重大な問題になっていることを示唆しているのではないだろうか。

 一編の評論の記載だけで断定するのは早計であるかもしれないが、仮にそのような見方が正しいとするなら、それは、北朝鮮社会に対する認識についての見直しを迫るものといえよう。北朝鮮が世界でも他に例を見ない徹底した個人独裁政治の国であることは間違いないところだが、だからといって、社会全般において、それを構成する個別の単位・機関などの内部における人間関係もそれぞれの首長が独裁的・権威的な存在であるということを意味するものではないことは、冷静に考えれば当然のことであるかもしれない。ただ、少なくとも私は、これまで、無意識のうちに両者を同一視してきたし、世間一般でもそうした印象を抱く人が多いのではないだろうか。

 本評論は、そのような意味で北朝鮮社会の実情を改めて見直す契機となるものと考える。