rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

2021年7月20日 評論「敬愛する総秘書同志を純潔な良心と義理で奉じる真の人間になろう」

 

 標記評論は、本日の「労働新聞」の冒頭に掲載されたもの。

 金日成金正日の下で活動した高官の例なども挙げつつ、「良心化された忠実性、まさにここに首領の思想と志が込められた党決定を一寸もたがえることなく一歩も譲歩することなく無条件に徹底して貫徹することができる確固たる担保がある」と主張する。

 加えて、「良心に曇りが生じれば、自らも知らないうちに同床異夢する背恩忘徳な人間、信頼をあれこれ推測し機会主義的に行動する鉄面皮な人間になってしまう。それで革命する人間は、良心を捨てたその瞬間から無用の存在になってしまうのである」として、「良心」の欠如による否定的な結果を端的に描写した上で、「いかなる覚悟や熱意、実力と責任感よりも、まず堅持すべきものが敬愛する総秘書同志を心から奉じ、受け取った恩徳に必ずや報いようとの汚れなく清らかな良心と義理である」ことを繰り返し強調している。

 そして、結びの部分では、「首領の真の戦士、忠実な弟子であるなら、首領の愛と恩徳を滋養分として育ったこの地の息子娘であるなら、首領に対する忠実性を革命的良心によって輝かしていかなければならない」として、「首領」を連呼している。

 同評論は、修辞はともかくとして、実質的には、金正恩に対する揺るぎない忠誠・服従を訴える以上の格段の意味内容を有するものではないように思える。しかし、逆にそうした言説がこうして党機関紙の冒頭に大々的に掲載されること自体が今日の北朝鮮の思想状況、精神状況を端的に反映しているともいえよう。

 また、「同床異夢」とか「機会主義的に行動する鉄面皮」といった表現は、過去に「反革命」などの咎で粛清された者に対して常用された表現である。同評論でのその使用がどのような政治的ニュアンスを含むものであるかは即断しがたいが、仮に特定の人物・勢力や事案を念頭においたものではなく、幹部一般に対する純粋にそうならないようにとの予防的警告にとどまるものであるとしても、表面的には「一心団結」を誇る北朝鮮体制が内包する潜在的脆弱性を感じさせるものということができるのではないだろうか。幹部に対する締め付けが強化されている最近の情勢の中での「信頼をあれこれ推測し・・」などとの表現は、そうした印象を裏付けるものである。