rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

2021年8月29日 金正恩が「青年節」に際し、「祝賀文」発表

 

 本日の「労働新聞」は、「青年節」である8月28日、金正恩の「社会主義建設の困難で大変な前線に嘆願進出した頼もしい青年たちへ」と題する同日付け「祝賀文」の「伝達集会」が開催されたことを報じ同祝賀文の全文を掲載するとともに、同日、各種の関連行事が実施されたことを伝えている。

 このうち金正恩の「祝賀文」は、先般来の青年による困難職場、地方への嘆願進出の動きが加速していることについて、「建国以来最も峻厳な局面に処して」いる中で、「何十、何百万トンの鋼鉄と肥料が生み出され何万台の機械が生産されたよりも一層鼓舞的な知らせ」であり、「(その)革命的進出により、総進軍隊伍の士気は日々天を衝いており、全国に必勝の信念と青春の活力があふれている」と評価し、これら青年を「青年愛国者」と呼び、その精神を「抗日革命闘士の崇高な精神の輝かしい継承」とするなど称賛を繰り返した上で、「隊伍の最前線で進撃の突破口を切り開いていく旗手となり先鋒闘士となる」よう呼びかけるものである。

 また、「伝達集会」では、李日換党秘書が祝賀文を伝達した(同人が青年節関連行事の最高責任者であることがうかがえる)ほか各地に進出した青年3人が「討論」を行った。

 加えて、同日には、平壌市内の金日成広場において、「青年学生の夜会」が盛大に開催された。同「夜会」では、広場一杯の青年男女がダンスをし、また、多数の花火が打ちあげられた。

 更に、これとは別に、同日昼には、平壌市内の4・25文化会館前広場と凱旋門広場において「青年学生の舞踏会」が実施されたほか、「新義州、海州、江界、恵山清津などの各地でも青年学生の舞踏会が実施された」ことが報じられている。

 なお、平壌市内のこうした行事への地方からの参加者については、8月26日に平壌に到着、党幹部や市民の出迎え・歓迎を受けたのに続き、27日には、錦繡山太陽宮殿を訪問したことなどが報じられている(いずれも28日付け「労働新聞」)。

 こうした「青年節」関連の動向からは、このところの青年対策の最大の焦点が青年の困難職場等への「嘆願進出」に当てられていることが明らかにうかがわれる。別の報道では、こうした進出青年の数は、約1万とされているが、実際のところ、彼らの「志望動機」がいかなるものなのか、かねて気になっていた。それに対する一つの重要なヒントが金正恩の祝賀文の中にある、「落伍していた青年たちが・・・自らを捧げる立派な決心をし、困難で大変な部門に進出することによって人生の新たな出発をした」との一節である。要するに、元の所属単位で何か問題を起こしたりして評価の低かった青年がこうした「嘆願進出」により、そうした「過去」を清算し、むしろ「模範的青年」と呼ばれる機会が与えられることが、こうした「嘆願進出」の一つの背景となっているのではないだろうか(すべてがそういうケースではないのであろうが)。しかも、このたびは、金正恩が「子供たちを送り出した家庭を愛国者家庭として積極的に押し出し面倒見る」ことまで指示してくれたのである。子供の不行跡で肩身の狭かった家族まで「愛国者家族」として何らかの特恵・優遇まで受けられるようになるとすれば、親不孝息子・娘にとっては、何よりの罪滅ぼしになるとも考えられる。

 そして、農村あるいは鉱工業部門への進出がそれほどの称賛の対象であるということを通じてうかがわれるのは、都市と農村あるいは事務なし商業などの部門と鉱工業などの肉体労働系部門の格差がそれだけ大きいということである。「北朝鮮の実情」と言っても、そのどちらに焦点を当てるかで随分と違ったものになるであろう。一面に偏しない総合的な見方がここでも求められることを改めて痛感せざるをえない。