rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

2021年11月1日 社説「国家事業のすべての分野において人民性をより強化しよう」

 

 標記社説は、「人民性」という概念を用いて、国家機関における「人民大衆第一主義」の徹底を訴えるものである。

 まず、「国家事業のすべての分野において人民性をより強化するということ」の意味を、「国の全般事業を組織進行するにおいて以民為天、為民献身の理念を徹底して具現すること」と説明している。

 次にそれを実行すべき理由として、①「人民大衆中心の我々式社会主義の優越性を余すところなく発揚するための必須的要求である」こと、②「人民の革命的熱意と無窮無尽の創造力を最大に噴出させ社会主義建設の新たな勝利を促進するための切実な要求である」ことの2点をあげている。

 このうち、①に関しては、「人民の利益を侵害する些細な要素と行為に対しても絶対に容認黙過せず・・我が国家存立の礎石である一心団結がくまなく固まる」ことなどに言及している。要するに、弊害ではなく利益を提供することによって、人民からの既存体制に対する信任、支持を確保するために必要ということであろう。また、②については、社会主義建設に対する人民の積極的貢献を引き出すためには、まず、国家機関の側が人民のためになることを行う必要があるとの趣旨と考えられる。

 社説は、次に「人民性強化」の具体的方法論として、①「幹部は我が党の崇高な人民観を骨の中に深く刻み人民のため滅私服務する透徹した覚悟を帯びなければならない」、②「どのようなことであれ人民の要求と利益を第一にして事業することを鉄則としなければならない」、③「人民政権機関の機能と役割をくまなく高めなければならない」などの要求を掲げている。なお、③に関しては、具体的には「すべての事業において人民の利益と便宜を最優先的に保障し、人民生活に責任を持つ戸主としての使命と本分に忠実」であることなどを求めている。

 要するに、同社説が訴える「人民性の強化」とは、人々の既存体制に対する信任・支持を確保し、更には社会主義建設への積極的献身を引き出すことを狙いとして、幹部の意識改革などを通じた一般大衆の利便・福利の増進(利益侵害の軽減)を実現することといえよう。また、こうした発想は、基本的に「人民大衆第一主義」の訴えにも通じるものと考えられる。

 留意すべきは、そこで「人民」は、利便の供与であれ、建設への動員であれ、いずれにせよ、あくまでも政治の客体として位置づけられていることである。人民政権についての「戸主」との比喩がそうした発想を端的に物語っているといえよう。「人民」は、「戸主」の下で保護・養育され、また善導・教育されるべき家族の一員とみなされているのである。「人民性の強化」あるいは「人民大衆第一主義」というのは、いかに「以民為天、為民献身」といった修辞を繰り返そうとも、そうした「保護・養育」や「善導・教育」を責任をもってしっかりと実施していくということの訴えであり、それを超えた、「主権在民」的な発想とは似て非なるものであることを改めて指摘しておきたい。