rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

2022年7月4日 論説「偉大な金正恩時代は我が人民の半万年の宿願が成就された栄光の時代である」

 

 標記論説は、冒頭で「敬愛する金正恩同志が我が革命を陣頭で導かれたときから10年の歳月が流れた」とした上で、同人のその間の業績を称賛するもので、その10年の意義を論じた「1」と金正恩の特質を論じた「2」から構成される。

 このうち「1」では、「10年が持つ巨大な意義」として、①「何よりも外勢の侵略と干渉策動を完全に終局的に清算することのできる物理的担保、絶対的力を準備したということ」と、②「また、我が人民が最上の享受する目覚ましい新時代の序幕を開いたということ」の2点を挙げている。なお、②については、「今、我が党は、農業と軽工業を飛躍的に発展させるための事業を革命的に、用意周到に実行している。(こうした)党政策が徹底して貫徹されれば、我が人民は食べ着て住むすべての面で世界が羨望する文明な生活を享受するであろう」と敷衍している。

 また、「2」では、そうした業績を上げた金正恩の「無限の力の源泉」などとして、「何よりも人民の宿願対する責任感、最後まで完成すべき強国建設偉業に対する責任感」、「人民に対する熱火のような愛と無限の献身」、「特出した領導実力」などを挙げている。

 同論説は、1ページでは収まらないほどの長文であるので、詳細は紹介しきれないが、特に注目される点をいくつか論じておきたい。

 第一に、「1」において、「10年」の成果として、核戦力を中核とする軍事力を念頭に置いたと思われる①が完了形の形で挙げられている一方、経済面での成果に関する②については、「序幕を開いた」に過ぎず、「(党政策が)貫徹されれば・・享受するであろう」として条件付きの展望でしかないことを明らかにしている点である。金正恩執権以来の成果の実情が端的に示されているといえる。

 第二は、基本的文脈からはややはずれるが、北朝鮮の強国化を望まず反対する勢力として、複数形での「列強」という表現が用いられていることである。すなわち、「1」①において、「他の国は絶対に自分よりも力が強くてはだめであり、対等であってもだめだというのが列強の共通する覇権意識である。したがって、列強は、自分たちの間にいかに深刻な矛盾と対立があっても、新興軍事強国として浮上する国に対しては互いに連合して抑圧している」と主張し、また、「2」においても、冒頭で、金日成金正日両人の業績を述べた上で、「富国強兵の大業を開拓することも苦難であるが、それを最後まで完遂していくことも、それに劣らず困難である」ことを主張する中で(この主張も、金正恩を先代に負けないものと位置付けるもので、それ自体、非常に興味深いものだが)、その理由として、「強国建設が力強く進捗するほど自らの覇権的地位を維持するための既存列強の挑戦と妨害策動がより強まって(いく)」ことをあげている。

 ここで、「列強」については、「自分たちの間にいかに深刻な矛盾と対立があっても」としていることから、いわゆるG7の西側先進国だけでなく、中国ないしロシアをも念頭においていることは間違いないであろう。結局のところ、こうした主張は、金正恩が西側のみならず中国などの反対・圧迫に抗して核ミサイル開発を進めてきたし、今後も進めていくということを物語るものといえよう。

 最後に、些細な点だが、なぜ、今日の時点で、金正恩が「革命を陣頭で導かれたときから10年」という論説が掲載されたのかということである。2012年の7月4日に何か重要な出来事があったのであろうか。管見の限り、公開された記念日などではないようだが。あるいは、今日の日付けには意味がなく、執権を開始した2012年から10年ということなのか、判然としない。後者であれば、今現在、その間の成果を(既に4月の「党、国家の最高職責への推戴10周年」に際してさんざん論じたにもかかわらず)こうした形で改めて大々的に称揚する必要があるということなのかもしれない。