rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

2022年9月11日 社説「敬愛する金正恩同志が歴史的な施政演説で提示された綱領的課題を徹底して貫徹しよう」(9月12日記)

 

 標記社説は、先の最高人民会議における長大かつ多岐にわたる金正恩の施政演説の中から、人民が実践すべき「課題」として、何をいかに抽出・集約しているのかを示すとともに、それをいかに実践していくかを論じたものである。

 そこで示された課題は2点ある。1番目は、「我が国家の第一の武器である一心団結の威力を思想意志的に、道徳義理的により強固に固めていく」ことである。

 2番目は、「我々式社会主義建設を新たな高い発展段階へと確固として移行させるための闘争課題(複数)」である。具体的には、①「国家防衛力建設を最優先、最重大視して共和国武装力をより一層不敗にしていくことを第1革命課題として堅持していくこと」、②「国家経済発展の5か年計画を完遂し、その成果を次の段階へと拡大するための闘争を強力に推進すること」、③「教育、科学技術、保健事業を重視し、その発展に力を注ぐこと」、④「現国際情勢の発展趨勢と自主強国の地位に即して対外関係を主動的に発展させていくこと」についての「思想」を示したことによって、「我が国家の強大性と必勝不敗性をより高く轟かすことができる進路を明らかにして下さった」と主張している。

 また、同社説がそうした課題実践のための方法論として挙げているのは、次の5点である。①「施政演説に提示された思想を深く体得」すること、②「「総秘書同志がいらっしゃるから、我々は必ず勝利するとの必勝の信念をより固く堅持」すること、③「国家経済発展の5か年計画を完遂し、その成果を次の段階へと拡大するための闘争を強力に推進」すること、④「幹部が非常な思想的覚悟と決心を持って・・奮発、奮闘」すること、⑤「各級人民政権機関の機能と役割を決定的に高める」こと。

 以上の主張のうち、まず「課題」について見ると、1番目については、施政演説ではさほど重大な形で提起されたわけではないと思われ(10日付け本ブログ参照)、こういう形で強調されることには、意外感がある。しかし、国内の意思統一がそれだけ重大な問題となっているという現実を反映しているのかしれず、その意味に注目・留意すべきであろう。

 「課題」の2番目は、実際の政策上の課題を羅列したものと言えるが、①の国防建設についての強調の仕方が印象的である。これだけを見ると、「並進路線」を通り越して、「先軍」路線が復活した感を禁じ得ない。本当にそう見るべきか、今後の最大の検討事項と考える。

 一方、方法論については、①、④、⑤は、何か新方針が出された時の定型的主張であり、実質的には余り意味がない。したがって、ここで特有の主張と言えるのは、②,③となる。

 このうち、②については、このところの主張を引き継ぐものであるが、前述「課題」の2番目とも通底する問題を感じる。要するに、金正恩の指導方針への疑念・懐疑が拡散している可能性である。それを前提にしない限り、敢えてこうした訴えをする必要性を認めることができない。

 ③は、「課題」の2番目をそのまま繰り返しているに過ぎず、方法論とは言い難いが、いずれにせよここで注目されるのは、5か年計画の「完遂」にとどまらず、「その成果を次の段階へと拡大する」ことを強調していることである。そうした主張は、確かに施政演説でもなされており、やや違和感を覚えたのだが、その点がここで改めて強調されていることからして、「5か年計画完遂」をひたすら訴えてきた従前とは異なる姿勢が打ち出されたと言っても過言ではないように思える。そもそも、5か年計画の2年目にあって、今年の計画達成さえ危ぶまれている状況にあって、当面目標への集中をまぎらわすことにもなりかねない、こうした主張を打ち出す狙いは何なのか、検討に値する問題であろう。

 こうして見ると、今次施政演説は、様々な面において「画期的」(流れの変化を示す)な意義を胚胎しているようにも思える。ただし、それが現実化するか否かは、今後の具体的政策展開等も含めて慎重に見極めていく必要があろう。