rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

2022年9月21日 評論「穀物生産構造を変えようとするなら思想観点から革新しなければならない」

 

 標記評論が言う「穀物生産構造の変化」とは、「人民の食生活文化を白米飯と小麦粉食品(パンとか麺類の意?)中心へと変える方向へと国の農業生産を志向させること」を意味し、評論は、その実現のため関係者の思想観点を改めることを訴えている。

 こうした「生産構造の変化」は、実は、金正恩が昨年12月の党中央委第8期第4回全員会議における農村問題に関する報告で掲げた方針である。恥ずかしながら、その時点では、その趣旨がよく分からなかった(本年1月5日付け本ブログ参照)のだが、この評論を読んで、目からうろこが落ちた感がある。

 つまり、それが意味するのは、稲作の刈り取り後に、秋から麦を栽培する二毛作の面積を拡大することによって麦類の増産を図り、これまでコメとトウモロコシを中心としていた食糧供給の「構造」を変化させるということである。

 評論は、それを円滑に実現するためには、「二毛作農事の稲、トウモロコシの収穫をまず終えて、それを追って行うべき耕地整備、質の良い肥料をたっぷりと施して秋小麦、大麦の種をまく作業・・」が必要となるが、「我々には、麦農事を大々的に行った経験も、多収穫種子も、農機械も不足している」。そのため、昨年の取り組みでは、地域ごとに大きな差が生じたとして、模範的な「温泉郡」の事例を紹介している。

 同郡は、麦生産面積を1.7倍以上に拡大することを目指したが、耕地面積の90%以上が田んぼである同郡で「畑作物である麦の栽培面積をそれほど増やすということは容易なことではなかった」。しかし、「党においてやれというとおりにさえすれば、間違いない」との信念を持って取り組んだ結果、良好な成績を収めることができたという。これが同評論のいう「思想観点の革新」の意味であろう。

 こうした「二毛作」推奨方針が今後どの程度の成果をあげることができるのか、大変注目されるところだが、いずれにせよ確実に言えることは、北朝鮮の食糧生産状況を論じる場合、今後は、従前のように稲作(コメ)とトウモロコシだけを見るのでは不十分であり、その後の麦の生産状況も視野に収める必要が生じたということである。例えば夏季の天候不順で稲作やトウモロコシの不振が見込まれるとしても、それだけで食糧不足を予測するのは尚早ということになる。逆に秋収までは順調にいっても、その後に何らかの問題が生じれば、年間を通じた食糧生産は計画を達成できなくなる公算が高いということになろう。

 もう一つ気になるのは、こうした二毛作の試みが、本来の稲作等に与える悪影響はないのかという点である。農業技術については、何らの知見も経験もないので、なんとも判断しがたいが、「二兎を追う者は一兎をも得ず」ということにならないのか、素朴な疑問が残る。