rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

2022年9月29日 ミサイル発射するも報道せず

 

 韓国軍の発表によると、北朝鮮は、9月28日午後6時10分ころから20分ころの間、平壌順安付近から東海(日本海)に向け短距離弾道弾2発を発射、同ミサイルは、最高高度約30㎞、速度約マッハ6で約360㎞を飛行したという。機種については、25日に発射されたミサイルと同じ、KN23と推測しているとのことである。

 北朝鮮報道機関は、今回も同ミサイル発射に関し、何らの報道も行っていない。

 今回のミサイル発射が、25日の発射と併せて、日本海において現在進行中の米韓共同訓練に対する反発・牽制であるとして、それを報じない理由は何であろうか。

 北朝鮮がミサイル発射を実行しながらも当該事実を報道しないという対応は、明白な発射失敗の事例を除くと、今年5月以降のものである。その理由を改めて考えてみると、次のようなものが想定できる。

① 戦力の「手の内」(実態)を明かさないため(具体的にどのようなミサイルを開発・保有しているのかを示さないことにより、米韓側の対応を困難にする)

② 米韓側に軍事力ないし軍事態勢増強の「名分」を与えることを避ける(金正恩は、先の「施政演説」で韓国の軍事力整備が北朝鮮の軍備増強に「名分」を与えていると指摘している。そのような認識の延長線上では、北朝鮮のミサイル開発が米韓側の軍事力増強に「名分」を与えることも当然意識しているであろうし、そうであれば、そのような効果を抑制するためには、報道しない方が良いと判断している可能性がある。それは、結局、米韓との軍備増強競争の加速化を避けるためとも言えよう)

③ ミサイル発射などの活動を報じた場合、国内的に士気高揚よりも不満・反発を招く効果の方が大きいと判断するに至った(人々の生活苦が続く中で、そうした軍備増強への支出が納得を得にくくなっている可能性)

 以上のような理由は、必ずしも排他的なものではなく、共存している可能性もある。ただし、前述のとおり、こうした報道姿勢が5月から突然現れたことを勘案すると、①,③は、何故、この時期からという点でやや説明が難しい。一方、②については、韓国で尹政権が5月10日に発足し、以後、米国との同盟関係強化に基づく北朝鮮への軍事的対峙の姿勢を顕著化させていることを背景に、北朝鮮内部で、そうした傾向の背中を押すような「名分」を敢えて与える必要があるのか、との発想が生じたと考えることは、それなりに合理的と思える。

 もちろん、そうした考え方に対しては、それなら、ミサイル発射そのものを何故止めないのか(更には、核政策の法例化という刺激策を何故行ったのか)という反問もありえようが、北朝鮮としても、米韓が軍事活動を活発化させる中で何もしない訳にはいかず、そういう中で刺激を最小化するための方策として公式報道での言及は避けているとも考えられる。

 十分な説得力のある説明にはなっていないが、現時点で考え付く限りを整理してみた。