rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

2023年1月17日 評論「技術神秘主義を粉砕する闘争とは主体的力の強化である」

 

 標記評論は、先の党中央委全員会議拡大会議で、金正恩が「技術神秘主義」の払拭を訴えたことを受けて、その趣旨を敷衍したものと考えられる。

 評論の内容紹介に先立ち、金正恩の当該発言に関する報道を改めて確認しておきたい。それは、第1議題に関する「報告」中、2023年度の経済分野の課題に関する部分で行われたもので、次のとおりとなっている。

総秘書同志は、我が党が国家創建から社会主義建設の全行程において偉大な首領様が提示された自立の思想を徹底して具現し、敗北主義と技術神秘主義清算するため強く闘争してきたにもかかわらず、このような古い思想傾向がいまだに巧妙な外皮をまとって一部の経済幹部の中に痼疾病、土着病のように引き続き潜伏していることについて厳しく戒められた。(改行)全員会議は、いまだに他人の技術に対する依存から脱せず、自力の原則をごまかそうとする古い思想に断固として甚大な打撃を与え、客観的条件にかこつけて我々の事業を妨害しているあらゆる誤った思想残滓をきれいに清算するための闘争を引き続き展開していくべきと認定した。」

 また、「朝鮮語大辞典」によると、「技術神秘主義」の語義は、「勤労大衆の創造的力と知恵を信じず、特定の人だけが科学と技術を知り、発展させることができると言って、技術を神秘化する古い思想観点」と説明されている。

 以上を踏まえて、評論の中の表現をいくつか抜粋する。

  • 「他人の技術に対する依存心をなくすための闘争の主打撃対象は、輸入しなければ現行生産と建設を行うことが出来ず、整備補強と現代化事業も実行が難しいと見る敗北主義的観点である」
  • 「自分の力を信じず他人の力、他人の技術に依存することは、我が党の自立の思想と根本的に背馳する。他人に従属したり依存したり、自分の力で立ち上がり前進するとき、国が強くなり社会主義建設においては驚くべき奇跡が創造されるようになる」
  • 「技術神秘主義に陥れば、科学技術をあたかも制限された何人かの人、科学者、技術者だけが発展させることが出来るかのごとく考えて、技術革命遂行に奮い立つことができなくなり、他人の科学と技術だけを偶像化し崇拝して自らの力で自分の国の実情に合わせて科学と技術を発展させていこうとしなくなる。すべての人民が科学技術の主人、科学技術発展の担当者となり、知識と技術で社会主義強国建設に貢献しなければならないというのが我が党の志である」
  • 「今日、経済建設は、単純に先進科学技術成果を導入し活用する実務的な事業ではなく、すべての人々に自分のものに対する愛着、自分の力に対する信頼、自分のものを世界的水準へと引き上げようとの自尊心を植え付け、それを最大限発揚させるための事業である」

 こうした記述から分かることは、金正恩が前掲部分において訴えたかったことは、決して、「科学技術」を尊重・重視することの否定ではなく、むしろ、その逆に、労働者大衆全般が科学技術を「我がこと」として、その活用・改善に主動的・積極的に取り組むようにすることである。「技術神秘主義」の名の下で批判したのは、そうした取り組みを阻害する、あるいは、それに消極的な幹部の発想・態度であろう。現に、全員会議の「決定貫徹」に関する最近の朝鮮中央放送のニュース番組などでも、各企業所などに設置されている「科学技術普及室」において、労働者がパソコンなどを利用して科学技術を学ぶ姿が盛んに紹介されている。こうした活動の奨励こそが「技術神秘主義」批判の具体的な実践と位置付けられているのであろう。

 もう一つ、ここで注目されるのは、「他人(の技術や製品)への依存」に対する繰り返しの批判である。こうした批判からうかがわれるのは、近年の経済制裁と外貨不足、更にはコロナ防疫のための輸入途絶などのために全国各地の生産・建設現場において外国製生産設備の更新はもとより部品補給などが困難になり、結果、所期の生産・建設活動ができなくなっているとの状況である。

 金正恩の前掲発言には、そうした状況を名目にした生産・建設の低下・遅延は許容しない、それぞれの現場で労働者大衆も巻き込んで創意工夫をこらし、なんとか自力で問題を解決せよ、という趣旨が込められているのであろう。更に言えば、そうした自前技術による開発・生産の模範が各種新型ミサイルの開発・生産に成功している軍需工業部門なのではないだろうか。昨年末、金正恩の指示に基づき、同部門の関係者を「主賓」とした「新年慶祝宴会」を開催したのも、そうした功績に報いるためであったと考えられる。