rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

2023年2月20日 論説「自立の信念を百倍しよう」(2月21日記)

 

 標記論説は、昨日の本ブログで部分的に引用したが、1面すべてを占める長大なものであり、重要な意味を持つと考えられるので、改めて全体像(「1」から「3」で構成)を紹介したい。

 「1」では、主に「自立」「自主」路線の必要性・正当性を様々な角度から主張している。すなわち、「自立は今日、我々式社会主義の全面的富興発展のための唯一の進路であり、近道である」(下線引用者)としつつ、それをおろそかにした場合の結果を「万一、時代の変化を云々して自立の原則から退くなら、それは主体の社会主義の基盤を崩し、長期間腰ひもを締めて勝ち取ってきたすべての高貴な成果を無用のものとしてしまうことになる。二度と自力で立ち上がれず、国と民族は永遠に大国の属国、技術の奴隷、後進国にとどまることになる」と戒めている。また、昨日紹介した以下のような主張もある。

 「世界が公認する最強の政治軍事国家、いかなる列強も無視できず尊重する国、・・これが半万年民族史でこれまでなかった偉大な我が共和国の絶対的国威であり国光である。この尊厳と栄光は、帝国主義者どもに劣等民族として蔑視され長年の間あらゆる受難と苦痛、屈辱を強要されてきた我が人民において、数百万トンの米や億万の金とも交換できない、飢え死にし凍え死にしたとしても捨てることのできない命のようなものである。」

 更に、「力の強弱と利己的目的によって国家間の関係が左右されている今日の世界で自分のものがなく、しっかりした国力なくしては尊厳と発展権はもとより生存権さえ守ることが出来ない」とも言う。

 加えて、経済的側面からも、北朝鮮が現在、「全面的発展」を目指していることを前提としつつ、「万一、莫大な資金と先進技術を必要とするこの巨大な事業を他国に依存して実現しようとするなら、それは雲をつかむような愚かなことである。対朝鮮制裁封鎖に執拗に狂奔する米国の強権が幅を利かす今日の世界で自らの利益損失を甘受してまで我が国に資金と技術、設備や原料をくれるという国はない」と断言して、対外依存という選択は望んでも現実的に不可能であることを強調している。

 そして、結論として、「自立は自身の力を絶え間なく増大させ最も知恵があり力がある我が人民の栄誉を固守していく道でもある」ことを強調している。

 「2」では、そうした「自立」を実現するためには、非常な覚悟と献身が必要であると主張している。すなわち、「自立の旗幟は信念が強い人民だけが高く掲げ翻していくことのできる闘争の旗である」という。その理由は、次のとおりである。

 「自立経済に対するあらゆる誹謗中傷とともに「世界化」の流れの普遍性と資本主義市場経済の「高度成長」に対する騒がしい広告、誘惑的な「援助」騒ぎは、自主的人民の心臓の中に固守された自立の信念を瓦解させようとの仇敵どものもう一つの陰凶で悪辣な圧力手段である。盤石な信念がなくては、この峠を到底乗り越えることができず、少しも前進することが出来ない」

 つまり、誘惑に屈してしまうおそれがあるということであろう。「いかに正しい自立の旗幟であると言っても、自分の力を信じることのできない人民は、この旗を高く掲げることができず、かりに掲げても、最後まで堅持できない」のである。

 その上で、北朝鮮では、金正恩の指導により、それが実現できているとして、「今日、我が人民が帯びた自立、自力の強い信念は、卓越した首領を高く奉じた限りない栄光と自負心の強烈な噴出である」と主張している。「自力更生は、敬愛する総秘書同志の革命領導の根本特徴である」からである。

 最後の「3」では、そうした「自立」を実践するための課題が提示されている。その第一は、「党政策決死貫徹の精神と集団主義精神を帯びて、献身的に闘争していく」ことである。要するに、与えられた目標を何としてでも達成すべく奮闘せよということであろう。第二は、「高い理想を抱いて、自分の部門、自分の単位の事業を新たに革新し、大胆に創造していく」ことである。「新しいものを創造できない自力更生は、自力更生であるとは言えない」とまで言い切っている。第三は、「科学技術発展に死活を掛けて人材となるために積極的に努力していく」ことである。

 以上長々と紹介したが、特に注目されるのは、「1」及び「2」の部分において、「自立」路線に反対ないし懐疑的な意見を念頭におきつつ、それに反論して「自立」路線を擁護するためとも目される主張がみられることである。そうした議論をこれだけ本格的に縷々展開するということの背景として、どのような状況が存在するのか、非常に興味深いものがある。

 一方、「3」の主張は、かなり実用的というか発展的なものとなっている。こうした、非常に原理主義的・精神主義的な側面と実用的・科学志向的な側面が混在しているのが、今日の北朝鮮の路線・政策の特徴といえよう。