rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

2023年5月24日 農村での政治宣伝活動を督励

 

 本日の「労働新聞」第1面は、「革命的思想攻勢で社会主義田野がぐつぐつと沸き立つようにしよう」との共通題目の下、標記に関する評論、記事を集中的に掲載している。

 まず、「農場の雰囲気は党組織を評価する尺度」と題する評論は、「農業勤労者の心臓に火をつける政治事業は、何千トンの肥料や営農物資よりも一層大きな威力を発揮する。実際に、最近何年かに穀物生産計画遂行において先頭に立った農場の経験を見ると、該当党組織が大衆の精神力発動をいかに行ったかによって農業生産成果が大きく異なることになるということを知ることが出来る」として、政治宣伝活動の重要性を強調した上で、「各級党組織は、農業勤労者の精神力を総爆発させるための政治思想事業を目的志向性をもって組織し、宣伝扇動力量と手段を総動員し、集中的な思想攻勢をかけることにより、全国の田野を思想戦の舞台へと確固として転換させていかなければならない」と訴えている。

 そして、そのための方法としては、①「隊伍の旗手である幹部が沸き立つ甫田の中に位置を定め、率先垂範して太鼓の音をとどろかせる」、②「党初級宣伝幹部の先駆者的、動員者的役割を絶え間なく高める」、③「機動芸術宣伝隊、女性同盟芸術宣伝隊、放送宣伝車、移動放送機材をはじめとした宣伝扇動力量と手段を総動員、総集中させ、直感宣伝(宣伝看板掲示などのこと)、放送宣伝、芸術宣伝、口頭宣伝など宣伝扇動活動を多様な形式と方法で実施」することを求めている。

 また、「甫田集中政治事業の威力を高く振るって」と題する記事は、そうした活動についての各地の取り組みの実例を紹介している。そこで、取り上げられているのは、①郡党レベルでの宣伝活動として、「3月に郡党幹部により組織された経済扇動隊」が「今までに数十回にわたり郡内の農場を巡回して経済扇動活動を力強く展開」したこと、②里党レベルの活性化に向け、「農村党組織が甫田政治事業を迫力をもって展開」するようにしたこと、③現場レベルの「農場扇動員の役割を高めるための党的指導」、具体的には「模範扇動員」により「作業の休憩時に農業勤労者の心を打つ扇動活動をいかに斬新に行うかを展示」させるなどの指導を行ったことなどである。

 なお、このうち②の「政治事業」の意味が判然としないが、個別的な談話などを通じた働きかけを指すものと思われる。具体的には、「党幹部が現場に出かけ農業勤労者とまじわって働きながら、形式ばらない政治事業を実施」「革命事績教養室、階級教養室講師が斬新な移動講義で大衆の闘争熱意を高潮」「初級幹部と多収穫農民で組織された農業政策宣伝隊」が「作業開始前と休憩時間を利用して政治事業を行い、現場で党の農業政策と先進的な営農方法も解説」などとされている。

 更に、「集中砲火、連続砲火、命中砲火」と題する記事は、「全国的に数百個の集中講演宣伝隊、数千個の機動芸術宣伝隊が農業戦線に展開」しているとして、各地におけるそれら組織の活動ぶりを写真も交えて紹介している。なお、同記事によると、「集中講演宣伝隊」は道レベルで、「機動芸術宣伝隊」は、郡レベル及び農場単位で、組織されているとみられる。

 こうした農村に対する政治宣伝活動については、本日の「労働新聞」だけでなく、テレビニュースなども含め、連日、その実施状況が盛んに報道されており、その報道量は、肝心の農業活動(例えば田植え)そのものへの取り組みぶりに勝るとも劣らないほどである。

 そうした報道姿勢は、概ね、農業への力量集中を決定した党中央委員会第8期第7回全員会議以降継続しているといえる。そこからうかがえることは、同会議の狙いが、単なる食糧増産を目指すだけのものではなく、そのための方法論として、党による政治宣伝活動の役割の強化、あるいはそれを通じた農民の意識改革といった側面を非常に重視したものであったということである。そうした方針は、肥料をはじめとする営農物資などの不足という状況下における苦肉の策と言えないこともないが、同時に、金日成が提唱した「農村テーゼ」以来の「農業」にとどまらず、「農村」「農民」の革命化を目指す伝統を継承した、金正恩の戦略的取組ともいえるのではないだろうか(果たして、それで食糧増産を実現できるか否かは別として)。