rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

2023年6月9日 農場改編の一端について

 

 北朝鮮の農業部門の基本的単位は、従前、「協同農場」であったが、昨年8,9月ころからは、報道記事などで「協同」を付さず「〇〇農場」との表現が用いられるようになっていた。

 そうした呼称の変更について、これまでのところ、北朝鮮からの公式的な説明は一切ない。昨年12月8日には、最高人民会議常任委員会常務会(開催日不詳)が「農場法」を改正し、「社会主義農業企業体としての農場の定義穀物予想収穫高の判定、穀物義務収買計画の示達、農場事業の条件保障と関連した条項が修正」されたことが報じられ(同日、本ブログでも紹介済み)、ここで協同農場の再編が法的に規定されたとも考えられるが、いずれにせよ、その具体的な実情は不透明なままとなっている。

 これまでに報道等を通じて明らかになったことは、農場の責任者の肩書として、従前用いられていた「○○協同農場 管理委員長」に代わる形で、「○○農場 経理」との名称が用いられていること程度であろう(ちなみに、「経理」というのは、通例、商店、食堂などの責任者に付されることの多い職名である)。

 そうした中、本日の「労働新聞」に掲載された「経験演壇」というコーナーに「青年たちを農村の核心として育てるとき」と題する、「咸鏡北道農村経理委員会 上河(音訳)農場 初級党秘書 張勇進(音訳)」による記事が掲載された。その内容自体は、当該農場において、災害防止に向けた建設計画実行のため青年突撃隊を編成し、政治思想教育などを施しつつ青年の力量を大いに発揮させるなどの事例を通じて、青年層を農村振興の核心として育成することに努めているといったことで、特段、注目すべきことはない。

 ここで注目されるのは、筆者の肩書である。通例、農場の名称は、「○○郡 ○○農場」と、所在する郡の名称を冠して記されるのが一般的であるところ、この上河農場は、所在する郡ではなく、道農村経理委員会(道級の農業指導機関。ちなみに、郡級の農業指導機関は、郡農業経営委員会)を冠して記されている。また、そこに置かれた党機関も、通常の農場であればその所在地を管轄する形で「里党委員会」になると思われるが、ここでは、企業所などを単位として組織されることの多い、「初級党」となっている。

 こうしたことから察するに、この上河農場というのは、郡の管轄下で里を単位に組織されている通常の農場とは異なる指導系列(行政的にも党的にも)の下に置かれた農場であると推測できる。

 こうした道直轄の農場が一般の農場と何が違うのか、どうして二本立てになっているのかも、まったく不明であるが、一つの仮説としては、協同農場の改編(ないし改称)と併せて、従前の国営農場がこうした道直轄の農場に改編(ないし改称)されたとも考えられる。

 なお、実は、こうした「○○道農村経理委員会」を冠した農場名の報道は、朝鮮中央テレビのニュース番組の画面の字幕では、しばらく以前から散見されていた(いつから出始めたかは残念ながら明言できない)。「労働新聞」で初出であるかどうかも断言できない。今日、たまたま気がついただけのことです。