2023年11月24日 金正恩の偵察衛星関係者との記念写真撮影などを報道(加筆版)
本日の「労働新聞」は、21日の偵察衛星打ち上げ成功に関連して、金正恩がいずれも23日、①国家航空宇宙技術総局にて偵察衛星関係者と記念写真を撮影、②非常設衛星発射準備委員会メンバーと記念写真を撮影、③政府主催による衛星発射成功慶祝宴会に出席、したことを報じる3件の記事を掲載した。各記事の主要点は次のとおりである。
- 国家航空宇宙技術総局関連記事:「偵察衛星打ち上げの成功で偉大な自主強国の尊厳を万邦に誇示するのに貢献した国家航空宇宙技術総局の科学者、技術者、幹部と共に記念写真を撮った」、金正植副部長、国家航空宇宙技術総局の柳相勲(音訳)総局長出迎え、「愛するお嬢様」同行、金正恩発言「偵察衛星の保有はわが国家の安全環境と発展利益、人民の安泰と幸福をしっかり守り、敵対勢力のさまざまな危険極まりない侵略的行動を主動的に抑止し、統制、管理していくべきわが武力にとって、少しも譲歩できず、瞬間もやめられない正当防衛権の堂々たる行使になる」「(衛星打ち上げ成功は)偵察衛星を宇宙の監視兵として、威力ある照準鏡として配備した驚異的な出来事」
- 非常設衛星発射準備委員会関連記事:(金正恩は)「初の偵察衛星の打ち上げを導いた非常説衛星打ち上げ準備委員会のメンバーに会って意義深い記念写真を撮影された」、「準備委員会が応分の責任と役割を果たしたことについて高く称賛された」「我が国家の航空宇宙技術力を急進展させる責任ある活動で今後も、新たな成果を多連発的に収めるとの期待と確信を表明(された)」(添付写真には娘の姿、金正恩の向かって左隣りに立つ)
- 慶祝宴会関連記事:「打ち上げの成功を祝って11月23日夕、木蘭館では朝鮮民主主義人民共和国政府の名で催した宴会が行われた」、「国家航空宇宙技術総局の活動家と科学者、技術者が主賓として出席」、「金正恩同志が尊敬するお嬢様と(李雪主)、女史と共に(出席)」、金徳訓内閣総理と崔善姫外相、金正植党副部長、張昌河ミサイル総局長同席、金徳訓が祝賀演説「国家航空宇宙技術総局の活動家と科学者、技術者に共和国政府を代表して真心こもった感謝と熱烈な祝賀のあいさつを伝え・・偵察衛星「万里鏡1」号によって共和国武力の軍事活動の道程には全く新しい局面が開かれ、全地球圏打撃能力を保有したわが軍の威力が名実共に世界最強のレベルに成長し、強化されたことに言及・・頼もしい科学者たちの闘争成果から強い鼓舞と真実で熱烈な愛国の手本を与えられて、全国の全ての活動家と勤労者、全人民が勝利の信念を一層強く固めるであろう」
巷間では偵察衛星の稼働状況について様々な見方がとりざたされているが、これら一連の動向は、北朝鮮の国内政治的には、それをまったくの「成功」として位置づけていることを改めて示すものである。
ただ、そうした「成功」を国内にどの程度、アピールするつもりであるのかは、やや微妙なところがある。こうした一連の報道や金徳訓総理の下線部の発言などからは、それを梃子に国民の士気向上を図ろうとの狙いもうかがわるが、一方、少なくとも本日の「労働新聞」を見る限りでは、「偵察衛星打ち上げ成功」に対する市民の「反響」などは報じられていない。今次「成功」も、結局、関係者に対する一連の慰労・顕彰行事で終わってしまう可能性も考えられる。
なお、細かい話であるが、慶祝宴会報道における「・・尊敬するお嬢様と(李雪主)、女史と共に・・」のうちの「李雪主」に括弧を付したのは、日本語訳では「お嬢様と李雪主女史」となっているが、朝鮮語の原文では、単に「お嬢様と女史」となっているためである。また、厳密にいうと、「お嬢様」は、朝鮮語では「자제분」(直訳すれば「お子様」であろう)となっている。いずれにせよ、「女史」よりも「お子様」が先に書かれており、着席位置も金正恩の向かって左隣りに「娘」、その左隣りに李雪主であり、記事の順番と一致する。夫人よりも娘を上位に位置付けていることがここでも確認できる。
以下加筆
慶祝宴会の参席者に関し、注目されるのは、崔善姫外相である。他の参席者の金徳訓内閣総理は宴会を主催した政府の代表、金正植党副部長、張昌河ミサイル総局長はいうまでもなく衛星打ち上げ事業の関連者であるのに対し、崔善姫外相の参席にはどのような意味が込められているのであろうか。
普通に考えれば、同打ち上げに、外交面での側面支援があったためということになり、これは、すなわち、韓国国家情報院が関連情報を把握したと称する、衛星打ち上げに対するロシアからの技術支援を裏付けることといえる。
ただ、そうした類推は誰にでもできることであり、仮に、北朝鮮がそうしたロシアとの関係を秘匿ないし否定したいのであれば、敢えて、崔善姫外相を同宴会に参席させる必要はなかったのではないだろうか。換言すると、そうした朝ロ協力関係を誇示したいとの思惑があったからこそ、同外相がそこに参席したとも考えられる。今次衛星打ち上げに関し朝ロ間で実際にどのような協力がなされたのか、なされていないのか、確認するすべはないが、いずれにせよ、北朝鮮は、国際社会が今や朝ロはそのような協力を行う関係にあると認識させたいのであろう。そうであれば、国家情報院が得た前述情報も、その真偽はさておき、そうした狙いから意図的に与えられたものである可能性も否定できないのではないだろうか。
なお、同宴会には、記事中には言及されていなかったが、添付写真により、金予正も参席(李雪主の向かって左側2番目に着席)していたので、付言しておきたい。また、金正恩と崔善姫外相を除く他の出席者は、金徳訓を含め皆おそろいの「国家航空宇宙技術総局」のTシャツを着用しているのが印象的である。