rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

2024年1月20日 最高人民会議第14期第10回会議での金正恩「施政演説」骨子(外政部分)

 

 標記演説「共和国の繁栄・発展と人民の福祉増進のための当面の課題について」の外政部分に関するハイライト部分を整理しておきたい(内政部分は18日の本ブログで既述)。

ア 軍事力整備・態勢強化

  • 情勢認識:「持続的に強行されている米国の滞りのない反朝鮮対決政策とそれに無条件的に屈従する大韓民国のような奴僕国家の自滅的妄動は、わが共和国の敵愾心を促進させる一方、軍事力強化の正当な名分と圧倒的な核戦争抑止力をより非常に向上させるべき当為性を十分に提供している」
  • 軍の態勢強化:「わが軍隊は・・敵のいささかの軍事的動きも逃さず鋭く注視しながらいかなる形態の挑発的行為も圧倒的な対応で徹底的に、無慈悲に制圧、粉砕できるように確信性のある万般の備え態勢を整えなければならない」
  • 民間防衛体制強化:「全人民抗戦で国も守り、革命的大事変も迎えようとするのが、わが党の戦略的構想である。・・一朝有事の際、即時戦時体制へ移行できる徹底した対策を立て、全人民抗戦のための物質的準備も抜かりなく整えるようにしなければならない」

イ 対韓関係

  • 政策転換の背景:「わが党と政府と人民は流れた歴史の長きにわたる期間、いつも同族、同胞という観点から度量の大きい包容力と粘り強い忍耐力、誠意ある努力を傾けて(きた)」。「しかし、苦い北南関係史が与える最終結論は・・大韓民国の連中とは民族中興の道、統一の道を共に歩めないということである」
  • 現状認識:「北南関係がこれ以上同族関係、同質関係ではない敵対的な二国家関係、戦争中にある完全な二つの交戦国関係であるという現実は、・・朝鮮半島の実状である」
  • 憲法への反映:「これに関連して、朝鮮民主主義人民共和国憲法の一部の内容を改正する必要がある」、「朝鮮民主主義人民共和国の主権行使領域を合法的に正確に規定するための法律的対策を立てる必要がある・・戦争が起こる場合には、大韓民国を完全に占領、平定、収復し、共和国領域に編入させる問題を反映することも重要である」、「大韓民国を徹頭徹尾、第1の敵対国、不変の主敵と確固と見なすように教育を強化するということを当該の条文に明記する(べき)」、「(これらを)次回の最高人民会議で審議されなければならない」
  • その他の関連措置:「『同族、同質関係としての北南朝鮮』『民族同士』『平和統一』などの象徴として映りかねない過去時代の残余物を処理するための実務的対策を適時に伴わせなければならない」、「共和国の民族史で『統一』『和解』『同族』という概念自体を完全に除去しなければならない」

ウ 軍事力の位置づけ(「自衛的国防力強化の革命的性格」)

  • 防衛力としての性格:「我々が育む最強の絶対的力は、いわゆる一方的な『武力統一』のための先制攻撃手段ではなく、徹底的に我々自らを守るために必ず育むべき自衛権に属する正当防衛力である」、「我々は敵が手出ししない限り、決して一方的に戦争を決行しないであろう」
  • 戦争対応力としての機能:「戦争が我々の前の現実に迫ってくるなら、絶対に避けるのに努力しないであろうし、自分の主権死守と人民の安全、生存権を守って我々は徹底的に準備された行動に完璧に、迅速に臨む」、「戦争は、大韓民国という実体をむごたらしく壊滅させ、崩壊させるであろう。そして、米国には想像できなかった災難と敗北を与えるであろう」

エ 外交政策

  • 基本路線:「米国の極悪な自主権侵害行為を絶対に許さないであろうし、主権尊重と内政不干渉、平等と互恵に基づく国際的正義を実現し、新しい国際秩序を樹立するために積極的に闘っていく」
  • 連帯対象:「社会主義国との関係発展を優先課題にして双務的・多角的協力をより一層強化し、国際的規模での反帝共同行動、共同闘争を果敢に展開し、自主と正義を志向する全ての国、民族と思想と体制の差を超越して団結し、協力(する)」

 以上のうち、「ア」の部分は、概して従前の主張の繰り返しであるが、民間防衛体制の強化について強調している点が特徴的といえる。

 「イ」の部分は、先の党中央委全員会議で打ち出した対韓政策転換方針の延長線上において、具体的な対応を訴えたものであるが、とりわけ憲法条文への反映を打ち出したことが特徴的であろう。ただ、その内容については、以前のブログでも指摘したことだが、韓国とは別国家である旨を領域を明示して明確化する一方で、戦争になれば「修復」するとの方針(下線部)は矛盾と言わざるを得ないのではないだろうか。また、今次会議では、憲法改正の必要性を訴えるにとどめ、実際の改正は次回会議に委ねたのは、事柄の重大性に鑑み、表現などに相当の検討が必要と判断したためであろうか。

 「ウ」及び「エ」の部分は、概して従前の主張の繰り返しであり、特段の新味はないともいえる。ただし、「国際的規模での反帝共同行動、共同闘争を果敢に展開」との表現については、ウクライナや中東におけるロシアや反米勢力への支援などを念頭においているとも考えられ、それを具現する動向が注目される。