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主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

2024年1月25日 党中央委員会第8期第19回政治局拡大会議の開催を報道(加筆版)

 

本日の「労働新聞」は、標記会議が1月23,24日の両日開催されたことを報じる記事及び同会議における金正恩の「結語」を掲載した。それらの骨子は、次のとおりである。

  • 開催目的:「地方工業発展の画期的な里程標の確定・明示」
  • 参加者:政治局委員、同候補が出席。「党中央委員会の当該部署の幹部、道・市・郡党の責任秘書と人民委員長、道党組織部長と道設計部門、地方工業工場の建設にかかわる内閣と国家計画委員会をはじめとする当該の省、中央機関の幹部、朝鮮人民軍の主要指揮メンバーが傍聴」
  • 金正恩の役割:政治局の委任により、「会議を司会」
  • 議事進行状況
    • 金正恩冒頭発言(会議開催趣旨、議題提案。詳細後述
    • 議題採択:①基本議題「『地方発展20×10政策』を強力に推し進める問題」、②付属的議題「主要政策対象工事の迅速な締めくくりと道・市・郡の自立的発展のために講じるべき対策的問題」
    • 基本議題審議:①「報告」(金才龍秘書)、②「討論」(黄海北道党委員会責任秘書・朴昌浩、雲山郡人民委員長・チャン・ミョンウン、金化郡党責任秘書・キム・ミョンチョル、内閣副総理兼国家計画委員長・朴正根、党中央委・(組織指導部)第1副部長・李煕用、党中央委員会秘書・朴正天、党中央委員会秘書・李日煥)、③「分科別研究・協議会」(金正恩が運営方向に関し指導、政局委員の指導下、両日にわたり実施。提起意見を決定書草案に反映)、④決定書採択(草案提案・趙勇元組織秘書、金正恩の提起により政治局候補委員及び傍聴者にも議決権付与の上、「党の地方工業発展政策を強力に推し進めることに関する決定書」を全会一致で採択)
    • 党中央軍事委委員長命令の伝達:命令「地方工業革命を起こすことに関する党中央委員会第8期第19回政治局拡大会議の決定貫徹闘争に人民軍部隊を動員することについて」を朴正天秘書が伝達(読み上げ)の後、金正恩が「親筆署名」、軍総参謀長に手交
    • 付属議題審議:①「人民の福祉増進のための主要政策対象工事を成功裏に完結するための党的な重大措置」を討議、決定、②「道・市・郡の自立的で円滑な発展を持続的に裏付けるための実務的対策」策定(審議過程・内容は言及なし)
    • 金正恩「結論」:「党の『地方発展20×10政策』を強力に推し進めるために」(内容後述)
  • 金正恩「冒頭発言」ポイント
    • 地方工業工場の整備に関し、2021年3月の第1回市・郡党責任書記講習会において金化郡を模範として全国的に推進するよう指示したが、これまで「党内の一部の政策指導部署と経済機関」は「革命的な決断や勇気なしに不利な主観的・客観的条件にとらわれて言葉でのみ間に合わせてじっとしてい(た)」などと厳しく批判
    • 「地方の人民に基礎食品と食品、消費財をはじめとする初歩的な生活必需品さえ円滑に提供できないのは、・・深刻な政治問題」であり、「地方人民の福祉を増進させ、権益を保護し、地方と農村の生活環境を改善するのに優先的な力を入れるのは、・・社会主義の全般的発展期を開くために必ず実行すべき政治闘争課題」
    • 「『地方発展20×10政策』の実行に関する問題を討議し、決定するために党中央委員会政治局拡大会議を招集したと述べ・・議題を提起」
  • 金正恩「結論」ポイント
    • 「(今次拡大会は)『地方発展20×10政策』の実行対策と主要政策対象工事を急いで終えるための問題を慎重に討議、決定した」。「(これは)人民的性格を明々白々に誇示する重大決定(である)」
    • 「(同政策の)企画と指導を具体的に、実質的」に行うため、「党中央委員会の部署、国防省と当該の省、中央機関の幹部」による「地方発展20×10非常設推進委員会」を組織
    • 「地方工業工場の規模は市、郡の人口と住民の需要、経済実態と自然地理的条件をよく打算し・・市、郡の具体的な実情に合わせて設計するのが特別に重要」
    • 「人民軍はわが党の宿願となる革命課題を実行する壮大なこの闘いでも当然旗手になり、主人公になるべき」
    • その他、「建設の全ての過程に対する検閲・監督活動」、「建設資材を適時に保障」、「(地方工場での生産の)原料拠点の生産能力を高める活動」、「製品の質を高める」ことなどについて強調
    • 政治局委員が市・郡を一つづつ担当して推進を指導。党中央組織指導部に「地方工業建設指導科」を設置し、政策実行を党的に裏付け
    • 「(会議で決定された)「主要政策対象の迅速な完工のための党的な重大措置」について、「資金、資材、労働力の有無と保障性、経済企画の用意周到さに先立って、我々の指導幹部、活動家の透徹した人民観によって保証されなければならない」

 以上のような今次会議の特徴としてまず指摘できることは、「地方発展20×10政策」を金正恩一人の思い付きをそのまま形にしたものとしてではなく、関係する中央・地方の各分野の総意を集めて、「慎重に」検討・研究した結果として位置づけたことであろう。その端的な表れは、「政治局会議」としては異例な傍聴者の数の多さのみならず、決定書採択に際し、議決権を持たない政治局候補委員に加え多数の傍聴者にまで議決権を付与したことである。

 その狙いは、今後の同政策の推進過程で直面するであろう様々な困難に際し、建設現場で、「上から無理やり押し付けられた計画のために苦労する」といった不平不満が生まれることをあらかじめ防止し、「自分たちで納得し、決めた計画である」との自覚・参加意識を持って取り組ませることにあると考えられる。

 もう一つの特徴は、基本議題の「報告」を党幹部部長の金在龍秘書が、決定書草案の提起を趙勇元組織秘書が行ったことに端的に示されるように、審議が経済部門担当者の関与をほとんど排して進められたことである。「討論」でも、経済部門プロパーの者は、内閣副総理兼国家計画委員長の朴正根だけである。更に、政策推進のため、軍部隊の投入を決めたことや党中央の「地方工業建設指導科」を経済部署ではなく、組織指導部に置くとしたことなども、それと軌を一にする動きといえる。こうした背景には、金正恩の経済部門幹部に対する、少なくともこの問題、おそらくは執務姿勢全般に対する、根深い不信感が働いているように思える。

 余談だが、軍部隊をこうした課題に投入するとの決定(具体的内容は示されていないが、大規模・長期のものとなろう)からは、「苦しい時の軍だのみ」がまた繰り返されたとの印象を禁じ得ないし、最近の「大韓民国平定」発言などは、やはり修辞的側面が強いのではとも感じられる。

 更に重要な問題として、こうした政策決定プロセスの持つ意味を提起したい。そこに、金正恩の指導権の強みと弱みが共に示されていると考えられるからである。すなわち、(自分も賛成したはずの)党中央委全員会議の決定を1月もたたないうちに覆し、それとは異なる重要決定を行うことができるという「強み」(専制性)と、そもそもの中央委決定の策定に際しては、自分の「思い」を十分に反映できなかったし、当時は、それに賛成せざるをえなかったという「弱み」(掌握不足)である。金正恩の指導権をめぐるこうした現象については、第8回全員会議での「沈黙」の背景などともあわせて、慎重かつ粘り強く検討を深めていくべきと考える。

 なお、付属議題で取り扱われた「主要政策対象工事」などについては、具体的に何を指すのかよくわからない。

以下加筆

 また、会議の開催地については、記事中に特段の記載はないが(通例は「党中央本部庁舎にて」と記載)、記事の中に「妙香山政治局拡大会議」との表現があることから、同地で開催されたと考えられる。妙香山は、金日成逝去の地でもあり、同地での開催は、今次会議を特別のものとして印象つけようとの狙いがうかがわれる。